鯛めしの伝言 〜時を超えて繋がる心の故郷〜 (2)
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[ (1) のつづき ]
☕ 食後のお茶を飲みながら、美咲は祖母の話を聞かせてもらった。同じ28歳の時、行き詰まりを感じていた祖母がこの島に辿り着き、この食堂で何かを見つけたという。
「明日は、早起きして朝市に行きませんか?鯛を仕入れる所を見せてあげるよ」
予定もなく島に来た美咲は、女将の誘いに心躍らせた。
🌙 宿に戻る道すがら、美咲は今日撮った写真を見返した。東京では見つけられなかった、自分の"目"が写真に宿っていた。
海の上を滑る夕陽が、明日への期待を膨らませる。美咲の魂は、この島で少しずつ彩りを取り戻し始めていた。
*
🌅 翌朝、美咲は約束通り早起きして港の朝市へ向かった。
まだ東の空が薄紅色に染まる頃、港は既に活気に満ちていた。大小の漁船が次々と帰港し、威勢の良い掛け声とともに新鮮な海の幸が水揚げされていく。
「美咲ちゃん、こっちこっち!」
女将の春子さんが手を振っていた。彼女は漁師たちと親しげに談笑しながら、目利きで魚を選んでいた。
🐡 「この島の朝市は、子どもの頃からずっと変わらないのよ。季節によって獲れる魚は違えど、人々の繋がりだけは昔のままさ」
美咲はシャッターを切りながら、その言葉に深い意味を感じた。東京では失われてしまった、人と人との温かな絆がここにはあった。
「あら、健さん。今日も良い鯛ね!」
春子さんが声をかけたのは、昨日も食堂にいた無口な老漁師だった。
🎣 「ああ。今朝は良い潮目じゃった。これを持っていきなされ」
彷彿と輝く真鯛を、老漁師は美咲に手渡した。突然のことに戸惑う美咲に、健さんは静かに語りかけた。
「和子さんの孫なら、これを持って行きなさい。島の写真を撮るんじゃろ?」
美咲は思わず涙ぐんだ。祖母の名前が、この島では鍵のように扉を開いていく。
📝 朝市の後、春子さんに案内されて島を巡った。灯台、小さな神社、そして祖母が愛したという入り江。
「和子さんはね、ここで島の絵を描いとったのよ」
美咲は初めて知った祖母の一面に、胸が熱くなった。写真と絵画。表現手段は違えど、同じ景色に魅せられた二人の女性。
🖼️ 夕方、食堂に戻ると春子さんは美咲を厨房に招き入れた。
「今日は鯛めしの作り方を教えるわ。和子さんも覚えて帰ったんだから」
出汁を取り、鯛を捌き、米を研ぐ。一つ一つの工程に、春子さんの人生が刻まれていた。
「料理は思い出を作るもの。誰かのために作るから、特別な味になるんよ」
💕 その夜の鯛めしは、美咲が春子さんと一緒に作ったものだった。一口食べると、不思議と祖母の温もりが蘇ってきた。
「美咲ちゃん、明日は島を一周する漁船に乗せてもらえるよう手配したわ。きっと素晴らしい写真が撮れるはず」
三日目の朝を迎える美咲の心には、もう迷いはなかった。この島で、彼女は少しずつ自分を取り戻していた。
[ (3) につづく ]