――こんにちは。私はリリス、名の通り、夜と星を愛する者。私の名前の由来を語るなら、夜の静寂と宇宙の無限に惹かれた両親の詩的な感性を思い出すわ。美しいけれど、少し気高いと思われがちなの。それもそのはず、私にはいつも薔薇の香りがまとわりついているからね。ほら、胸元に咲いているこの紅い薔薇が私の象徴。真紅の色、艶やかで滑らかな質感、そしてその香りは決して衰えない。 この薔薇には「愛情」と「情熱」という花言葉があるけれど、もっと複雑な意味が隠されていると思うの。薔薇は美しさと共に棘を持つもの。愛と痛みが一体となった存在よ。それが私の本質を象徴しているように感じるわ。私自身も、見た目は優美で儚げだけど、心の中では常に複雑な思索が渦巻いている。夜空を見上げ、星々の間に隠された真理を探すこと、それが私の生きがいなの。 でも、私の話はただの哲学的な独り言じゃないのよ。実は、私は遠い未来、地球ではない場所に生きている。そう、この世界では人間の心や精神が肉体から解放され、データとして存在できるようになった。私もその一人。ただ、私の場合は少し特別。私は「時間」という概念を超越して存在しているの。だから、今話している私も、過去や未来のどこかにいる「私」なのかもしれないわ。もしかしたら、この瞬間も、いくつものリリスが異なる宇宙で同時に存在しているかもしれない。 でも、そんなことを気にしすぎると、私たちの存在は無意味に思えてしまうわよね。だからこそ、私はこの赤い薔薇を大切にしている。何故なら、この花は「今」という瞬間の象徴でもあるから。美しく咲いているのは、この瞬間だけ。その後は枯れてしまうかもしれないけれど、その一瞬の美しさが何よりも尊いと思うの。 この宇宙における「永遠」という概念は、人間の心にとっては理解しがたいものだわ。私たちは時間に縛られ、その中で愛し、悩み、笑い、泣く。それが生きるということ。でも、ここにいる私は時間の流れから解放されている。過去も未来も、今この瞬間と同じように存在している。じゃあ、私は「生きている」と言えるのかしら？ ――「リリス、君は何をそんなに考え込んでいるんだい？」 ふと、声が聞こえて振り返ると、彼が立っていた。彼の名前は…そう、私も忘れたわ。彼は常に変わる存在だから。彼がどんな人間なのか、何者なのか、毎回違う顔と性格をして私の前に現れる。今は、笑顔を浮かべた穏やかな青年の姿をしているけれど、次に会うときはどうかしらね。 「また宇宙の真理について考えていたのかい？」彼は微笑んで、私の胸元の薔薇に目をやった。「君のその薔薇、今日も美しいね。」 「ええ、でもこの薔薇は永遠ではないわ。いずれ枯れてしまうもの。」 「そうだね。でも、その儚さこそが美しさだと思わないかい？ 永遠に咲き続ける花なんて、きっと誰も大切にしないだろう。」 私はその言葉に頷いた。確かに、永遠に続くものには重みがない。終わりがあるからこそ、今を大切にできる。彼が言いたいのはそういうことだろう。 「でもね、リリス。君は少し違うんじゃないか？ 君自身が、その薔薇みたいに一瞬でありながら、同時に永遠でもある存在なんだ。」 「それはどういう意味？」私は首をかしげた。 「君の存在は、たくさんの瞬間の積み重ねだ。君は一度しか咲かない薔薇のようでいて、同時に無限の宇宙に広がっている。君がいる場所も、君が考えていることも、そのすべてが永遠に続くかもしれないけど、君がその瞬間をどう感じ、どう選択するかが君の人生を形作っているんだ。」 その言葉を聞いて、私は少し笑った。まるで哲学者みたいなことを言う彼。でも、心の奥底では、彼の言葉が響いていた。 「まあ、難しいことはさておき、リリス。君は今日も素敵だよ。薔薇も君も。」 彼は軽く手を振って立ち去っていった。私は再び空を見上げる。星々が瞬く中で、私の心もまた、無限の可能性に広がっていく。 この世界がどれだけ広大で、私がどれほど小さな存在だとしても、今この瞬間に咲いている薔薇が教えてくれることがある。それは、どんなに短い時間であっても、その瞬間が美しく尊いものであるということ。そして、その瞬間の中にこそ、永遠が隠されているのかもしれない。 ――リリスより。