古びた洋館の玄関に立ち、私は深いため息をつく。祖父の遺産相続から一週間が経ち、この館で一人暮らしを始めることになった。私、山村裕也。25歳、システムエンジニア。都会での一人暮らしから一転、この伝統ある館の新しい主となった。 「メイドを雇うことは、館の伝統なのです」祖父の言葉が耳に残る。生前、祖父は何度もそう口にしていた。私にとっては時代錯誤な考えに思えたが、遺言の一つとして受け継ぐことを約束した。 窓の外には、超高層ビルの林立する都市の景色が広がっている。この館だけが、まるで時間が止まったかのように、昭和初期の面影を色濃く残していた。古い建築物の保存地区に指定されているため、外観は当時のままに保たれている。 スマートフォンを取り出し、祖父が指定していた人材紹介会社に連絡する。「メイドサービス」という文字を画面に打ち込むだけで、なんとも時代にそぐわない感覚に襲われた。 館の中は驚くほど手入れが行き届いている。祖父の代からずっと、代々のメイドたちが丹精込めて守ってきたのだろう。重厚な階段の手すりは艶やかに磨かれ、シャンデリアは優雅な輝きを放っている。 システム開発の仕事は在宅でできる。それが、この館での生活を決意した理由の一つだ。しかし、広すぎる空間を一人で維持するのは難しい。確かに、メイドの存在は必要かもしれない。 「はい、ご依頼承りました。では、本日午後3時に最適な人材をお遣わしいたします」電話の向こうの声は、不思議なほど落ち着いた響きを持っていた。 時計の針が午後3時を指す直前、玄関のインターホンが鳴った。モニターに映し出されたのは、まるで絵画から抜け出してきたような美しいメイドの姿だった。 白いフリルのエプロンに黒のネックレス。完璧な立ち振る舞いで、彼女は自己紹介する。「アリスと申します。本日より、お屋敷のメイドとしてお仕えさせていただきます」 その瞬間、私の目が彼女の瞳と合った。そこには、人間とは思えない深い輝きがあった。心臓が高鳴る。これが運命の出会いというものなのだろうか。それとも、何か別の力が働いているのだろうか。 アリスが館に入った瞬間、空気が変わった気がした。彼女の周りには、不思議な光のようなものが漂っている。それは目には見えないが、確かに存在する何かだった。 「ご主人様のお好みは伺っております」アリスの言葉に、私は思わず身震いした。まるで、私の心の奥底まで読み取られているような感覚。これが、後に私たちを禁断の関係へと導くことになる、運命の始まりだった。 アリスの案内で館内を巡回する。私の足取りが少し早いのか、彼女は優雅な仕草で「ご主人様、もう少しゆっくりと参りましょうか」と声をかけてきた。その声には、まるで蜜のような甘さがあった。 廊下には、祖父の代から受け継がれてきた肖像画が並ぶ。「こちらの絵画は1924年のものですね」アリスが解説する。「えっ、そんな詳しい情報まで？」私が驚いて聞き返すと、彼女は微笑むだけだった。 書斎に入ると、私の仕事場を即座に整えてくれた。最新のホログラムディスプレイと古めかしい木製デスクの組み合わせは、妙な調和を生んでいた。「システム開発のお仕事、集中できる環境を整えさせていただきました」 「お茶の時間です」午後4時、アリスがティーカートを押して現れた。アールグレイの香りが館内に漂う。カップを受け取った瞬間、私の指が彼女の手に触れた。その冷たさに、私は思わず目を見開いた。 「山村家の歴史をお話しさせていただきましょうか」夕暮れ時、アリスは古い写真アルバムを持ってきた。そこには、私の知らない祖父の若かりし日の姿があった。そして、その横には...今のアリスと瓜二つのメイドの姿が。 夜が更けていく。「今日はこれで失礼いたします」アリスが一日の業務を終えようとしたその時、私は思わず彼女の手を掴んでいた。「どこに帰るの？」という素朴な疑問が、私の口から漏れた。 アリスは月明かりに照らされ、幻想的な表情を浮かべる。「私の居場所は、この館の中です」彼女の答えは、どこか謎めいていた。そして、廊下の突き当たりにある小さな部屋へと消えていった。 就寝前、私は今日一日を振り返っていた。完璧すぎるメイド、アリス。彼女は確かに優秀だが、何かが違う。人間離れした所作、不思議な知識、そして何より...私の心を読むような言動。 （つづく） 全部を載せたいのですが、残念ながらこちらのキャプション欄には文字の制限があるため、もし続きが気になる方は私のnoteをご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！