私の名前は佐藤桜子、今年で高校2年生になります。母が「さくらこ」と名付けたのは、私が生まれた日に窓から見えた満開の桜が、とても美しかったからだそうです。 今でも毎年、桜の季節になると母はその話を懐かしそうに語ってくれます。私たちの町、桜ヶ丘では、春になると通りのあちこちで桜が咲き誇り、まるで町全体がピンク色の雲に包まれたようになります。 私の通う桜ヶ丘高校は、丘の上にあって、校庭には樹齢100年を超える立派な桜の木があります。その木の下で私は不思議な出会いを果たすことになるのです。 最近、私の住む町は少し元気がないように感じます。スマートフォンを見ながら足早に歩く人々、疲れた表情で電車を待つサラリーマン、誰もが忙しなく、そして何か大切なものを忘れているような気がしていました。 母から聞いた昔話を思い出します。「この町には桜の精霊が住んでいて、春になると人々の笑顔を集めて桜の花を咲かせるのよ」という話です。子供の頃は単なるおとぎ話だと思っていましたが、今の私にはその言葉が深い意味を持って響きます。 あの日、私は放課後、いつものように校庭の桜の木の下で過ごしていました。春の柔らかな風が頬を撫で、散りゆく桜の花びらが舞い踊ります。ふと目を閉じると、不思議な温かさに包まれる感覚がしました。 「桜子さん」優しい声が聞こえ、目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていました。風に揺れる桜の枝の間から、淡いピンク色の着物を纏った美しい少女が現れたのです。長い黒髪に桜の花を飾り、まるで浮世絵から抜け出してきたような佇まい。 「私の名は春華。桜の精霊よ」彼女はそう言って、柔らかな笑みを浮かべました。「この町の人々が、春の喜びを忘れかけているの。あなたに手伝ってほしいことがあるわ」 その日から、私の日常は大きく変わり始めました。春華は私に「春の心」を見る力を授けてくれました。それは、人々の心の中に眠る春の記憶や喜びが見える不思議な力です。 私の親友の美咲と健太も、この計画に協力してくれることになりました。美咲は創作活動が得意で、アイデアが豊富。健太は運動部で体力があり、実行力抜群です。 私たちは、町の活性化のために「春色スマイルフェスティバル」を企画することにしました。桜の下での音楽演奏、手作り市場、思い出の写真展示など、様々な企画を考えました。 しかし、準備を進めるうちに問題が発生します。町役場への申請は複雑で、予算も限られており、何より町の人々の関心が低かったのです。SNSでの告知にも反応は鈍く、私たち自身も不安を感じ始めていました。 そんな時、春華は私にアドバイスをくれました。「人の心を動かすのは、大きな仕掛けじゃない。小さな親切の積み重ねよ」 この言葉をヒントに、私たちは作戦を変更しました。まず、町内の高齢者施設を訪れ、お年寄りから昔の桜祭りの話を聞かせていただきました。その思い出話を元に、手書きのお便りを作成し、町中に配布したのです。 お便りには、桜の押し花と「あなたの春の思い出を教えてください」というメッセージを添えました。すると、予想以上の反響がありました。多くの人々が自分の思い出や感謝の気持ちを書いて返してくれたのです。 フェスティバル当日、私たちは不安と期待が入り混じる気持ちで会場の準備をしていました。最初は人々の足取りはゆっくりでしたが、次第に会場は賑わいを見せ始めます。 子供たちは桜の下で笑顔で走り回り、お年寄りは懐かしい歌を口ずさみ、若いカップルは写真を撮り合っています。集まった思い出の写真には、たくさんの人々の笑顔が詰まっていました。 しかし突然、空が暗くなり、強い風が吹き始めました。人々は不安そうな顔を見合わせ、帰り支度を始めようとします。その時です。春華の声が私の心に響きました。「今こそ、あなたの出番よ」 私は咄嗟にマイクを取り、声を振り絞りました。「皆さん、この風は私たちを試しているのです。昔の人々も、きっとこんな時があっても助け合って乗り越えてきたはず。今日はみんなで力を合わせて、新しい思い出を作りましょう！」 すると、健太が率先してテントを押さえ、美咲は子供たちを集めて即興の劇を始めました。お年寄りたちは懐中電灯を取り出し、若者たちはスマートフォンのライトを灯します。暗闇の中、無数の光が桜の木を照らし出しました。 （つづく） 全部を載せたいのですが、残念ながらこちらのキャプション欄には文字の制限があるため、もし続きが気になる方は私のnoteをご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！