麗奈は、日曜日の朝が好きだ。 静かな部屋に差し込むやわらかな光。カーテンの隙間から覗く青空。お気に入りの白いカップに注がれたカフェオレを両手で包み、深く息を吸い込む。この瞬間が、彼女にとってのささやかな幸せだった。 そして、もうひとつ——麗奈にとって欠かせない至福の時間がある。 それは、自宅のトイレにこもることだった。 普通の人にとって、トイレは単なる用を足す場所に過ぎないかもしれない。しかし、麗奈にとっては違う。そこは、誰にも邪魔されず、心からリラックスできる「私だけの空間」だった。 部屋の隅にあるドアノブをそっと回し、足を踏み入れる。 芳しい香りがふわりと漂う。シトラスとホワイトムスクをブレンドしたディフューザーが、空間を心地よく包んでいた。壁は柔らかなアイボリー。間接照明がほどよく影をつくり、まるで高級スパのような穏やかな雰囲気を演出している。 そして、麗奈の視線は真っ先に、そこへ向かう。 白く、なめらかに輝く便器——TOTOの最新モデル「ネオレストNX」。 麗奈は、そっとしゃがみこみ、陶器の表面を指先でなぞる。ひんやりとしているのに、どこかぬくもりを感じる質感。流れるようなフォルムに、ほのかに映る自分の顔。完璧な曲線美。無駄のないデザイン。まるで芸術品のような佇まい。 「……今日も美しいね」 思わず、小さくつぶやいてしまう。 便器は無言だが、麗奈にはわかる。彼女が触れたとき、陶器がわずかに応えるように温もりを返してくれる気がするのだ。 温水洗浄便座の操作パネルに指をすべらせる。最新機能を搭載したこの便器は、まさに麗奈の理想そのものだった。フルオート開閉、瞬間暖房便座、除菌脱臭機能——細部にまで行き届いた配慮が、彼女を深い安心感で包む。 麗奈は深く息を吐く。指先をそっと離し、便器を見つめた。 「トイレって、やっぱり最高」 静かな室内に、彼女の満足げな声だけが響いた。 麗奈は、便座の端にそっと指を這わせながら、ゆっくりと腰を下ろした。 ふわりと温かい感触が、彼女を優しく包み込む。ネオレストNXの瞬間暖房便座は、まるで高級ソファのように心地よい温もりを与えてくれる。これがあるだけで、冬の朝も怖くない。いや、それどころか、冬の朝が楽しみになる。 「ん〜…最高……」 目を閉じ、じんわりと広がる幸福感に身を委ねる。壁には上品なアロマキャンドルの灯りが揺らめき、ほのかにバニラとラベンダーが混じった香りが漂う。心地よい静寂の中、ほんのわずかに響くのは、ウォシュレットの水が循環する微かな音だけ。 麗奈は手元のリモコンをそっと握る。ボタンを押すと、便器の奥から「シュー…」という控えめな音がして、やわらかな水流が下から吹き上がる。 「あぁ……、この絶妙な水圧……」 彼女は微笑み、まるで秘密の恋人と語り合うように、そっと便器を撫でる。おそらく、この絶妙な水流の角度と強さを設計したエンジニアは天才に違いない。いや、それだけではない。便座のカーブ、センサーの感度、除菌機能のタイミング、すべてが計算し尽くされている。 「やっぱり、トイレはただの設備じゃないわ。ひとつの芸術なのよ……」 そうつぶやくと、ふと脳裏に浮かぶのは、かつて味わった“悲劇”だった。 2年前、旅行先のビジネスホテル。 見た目はそれなりに整ったトイレだったが、便座が冷たく、ウォシュレットの水圧は強すぎ、さらに乾燥機能が途中で止まるという三重苦。 あの瞬間、麗奈は思った。「私は一生、自分の理想のトイレを追い求める」と。 それ以来、彼女のトイレ愛は加速し、ついにはマンションを選ぶ際の最優先条件が「理想のトイレを設置できること」になった。 ——そして今、彼女は夢を叶えたのだ。 「完璧……」 麗奈はそっと便座を撫で、満ち足りた表情で微笑む。 彼女の一日は、こうして静かに、幸福に満ちた時間から始まるのだった。 麗奈はゆっくりと立ち上がり、リモコンの「流す」ボタンを押した。 「ゴォォォ……」という穏やかな水流の音が響き、便器の中を水が静かに旋回する。 その様はまるで小さな滝のようで、麗奈はしばし魅入ってしまう。 「美しい……」 陶器の滑らかな表面を流れる水の動きは、どこか詩的でさえある。 彼女は静かに頷き、便座をゆっくり閉じた。 「よし、今日も最高の時間だったわ。」 トイレの清潔感を保つことは、麗奈にとって日々の儀式のようなものだ。 除菌スプレーをシュッとひと吹きし、クロスで優しく拭う。 そうすることで、便器はまるで新品のような輝きを取り戻す。 「うん、いい感じ……」 （つづく） 全部を載せたいのですが文字の制限があるため、もし続きが気になる方は私のnoteをご覧ください。