雨音のセレナーデと、私の小さな部屋 しとしと、ぽつぽつ、さぁー…… 雨の音は、気まぐれなメロディーだ。 リズムもテンポもバラバラなのに、どこか心地よくて、耳を澄ませていると時間の流れを忘れてしまう。 窓の外は、ぼんやりと霞んでいた。アスファルトに映る街灯のオレンジが、雨粒に滲んで、まるで水彩画みたいに広がっていく。 私は、マグカップを両手で包み込みながら、ぼんやりとその景色を眺めていた。 中身は少し冷めかけたカフェオレ。ミルクの甘さとコーヒーのほろ苦さが混ざり合って、雨の日にぴったりの味がする。 机の上には、開きっぱなしのノートPC。 光るモニターには、私の名前——「夢咲雫」の配信画面が映っている。 Vtuber、夢咲雫。 それが、今の私の「顔」であり、「声」であり、「生き方」だ。 「さて、今日はどんな話をしようかな」 つぶやきながら、私はSNSを開いた。 ファンの人たちから、たくさんのリプライやメッセージが届いている。 その中に、一つのコメントが目に留まった。 「雫さんは、雨の日ってどんな風に過ごすんですか？」 小さく微笑む。 ふと、幼い頃の記憶が蘇る。 ——雨の日が、苦手だった。 靴下がじっとり濡れるのも、空がずっと灰色なのも、傘をさしても服がしめってしまうのも、全部、全部、嫌だった。 だけど、今は違う。 今の私は、雨の日にしか見えない景色が好きだし、雨音に包まれる静けさが心を落ち着かせてくれる。 それに、雨の日の配信は、なんだか特別な気がする。 いつもより、画面の向こうの「誰か」が、近くにいるような気がするから。 「よし、今日は雑談配信しよう」 私は決意し、ゆっくりと配信の準備を始めた。 ✨🎙️💻💙 雨の日の秘密と、静かな語り ☔📖🌿 「こんしず～！今日もまったり過ごしましょうね✨」 画面の向こうから、私の声が流れる。 もちろん、実際にしゃべっているのは私だけど、そこに映っているのは「夢咲雫」——ふわりとした銀髪に、透き通るようなブルーの瞳を持つ、バーチャルの私だ💙 リスナーたちのコメントが、一気に流れ始める。 『しずくちゃ～～ん！今日もかわいい！💕』 『待ってました！雨の日配信！☔』 『声が癒しすぎる……😌💙』 ふふっ、と小さく笑いながら、私はマグカップをそっと机に置いた。 「今日はね、ゲームじゃなくて雑談しようと思ってるよ！🎙️ テーマは『雨の日の過ごし方』☔」 コメント欄が、一斉に盛り上がる。 『雨の日って気分沈むよね～』 『しずくちゃんはどうやって過ごしてるの？👀』 『雨の音って、なんか落ち着く……😌🎶』 「うんうん、わかる！ 実はね、私も昔は雨の日が苦手だったんだよね💦 でも、あることがきっかけで好きになったの」 そう言って、私はそっと目を閉じる。 少しずつ、あの記憶が蘇る——幼い日の、雨の日のこと。 ☔💭 ——過去の記憶へと沈んでいく。 「しずく、行くよ！」 お母さんが差し出した手を、私は小さく握った。 その日は、大きな水たまりが道にいくつもできていて、私は長靴を履いていたけれど、どうしても濡れるのが嫌で、ぎゅっと眉をひそめていた😣 「雨、きらい……」 そう呟くと、お母さんはくすっと笑った。 「じゃあさ、小さな雨の音を探してみようか？」 「……？」 「ほら、耳をすましてみて？」 私は、言われるがままにじっと耳を澄ませる。 ぽつ、ぽつ、ぽつ……。 傘に当たる音、葉っぱに落ちる音、水たまりが弾ける音。 少しずつ違うリズムで、でも不思議と調和していて……まるで、小さなオーケストラみたいだった🎶 「ね？ ちょっと楽しくなってきたでしょ？」 お母さんの優しい声に、私は少しだけうなずいた。 その日から、私は雨の日に耳を澄ますようになった。 そして気づいたの——雨の日には、雨の日にしか聴こえない音があるってことに☔🎶 💙🎙️ ——現在に戻る。 「そんな経験があってね、私は雨の日がちょっとだけ好きになったんだ✨」 [ (2) に続く]