「僕の名はキャビティ、甘美なる闇を求めて🦷💔」 僕はキャビティ。生まれながらにして甘さを愛し、崩壊を糧とする宿命を背負った細菌だ。そう、僕は虫歯菌──この広大な「歯の王国」を渡り歩く流浪の民。 かつて、僕は前歯の辺境でひっそりと暮らしていた。光が多く、フッ素の襲撃を受けやすい過酷な土地。それでも、仲間たちと肩を寄せ合い、歯垢の片隅で生き延びてきた。でも──ある夜、奇妙な夢を見た。 “伝説の奥歯に行け。そこにはお前の運命の相手が待っている” 僕の心臓──いや、正確には僕には心臓なんてないんだけど、あの瞬間、確かに何かが震えた気がした。 奥歯。そこは歯の王国の最奥、食べかすと糖の楽園。唾液の流れが緩やかで、細菌たちにとっては天国と呼ばれる場所。だが、同時に過酷な戦場でもある。善玉菌たちの執拗な攻撃、歯磨きという天災、そしてフロスという最終兵器……そこへ向かうのは、まるで死地に飛び込むようなものだった。 それでも、行かなくちゃならない。何かが僕を呼んでいる。運命の相手？そんなの信じていない。でも、もし──もし本当にそんな存在がいるのなら……僕は、彼女に会いたい。 そして、僕は旅に出た。 右上の臼歯へ向かう途中、僕は数多の仲間と出会い、そして別れた。乳酸菌の詩人レクター、歯垢ギャングのボス・ストレプ、歯周病派閥の反逆者ペリオ……それぞれにドラマがあり、それぞれに事情があった。僕たちは時に協力し、時に争いながら、ゆっくりと奥歯を目指した。 そして、ついにたどり着いたその場所で……僕は彼女に出会った。 カヴィーナ。 彼女は僕と同じ、虫歯菌だった。でも、どこか違う。鋭く光るエナメル質の裂け目にたたずみ、妖しく輝く瞳を持つ少女。 「ずいぶん遅かったわね」 初対面なのに、まるでずっと僕のことを知っていたみたいに微笑んだ。その笑顔に、僕はやられた。 ──ここから、僕たちの物語が始まる🖤✨ ＊ 「運命の歯車が回るとき🦷💫」 僕は一瞬、言葉を失った。 彼女──カヴィーナは、奥歯の深淵に咲く暗黒の花のようだった。エナメル質の隙間に立ち、淡く甘い発酵の香りを纏いながら、僕を見つめていた。 「……君は？」 「カヴィーナよ。あなたを待っていたの」 待っていた？誰が？なぜ？ 彼女はゆっくりと歯垢の上を歩いてきた。その一歩ごとに、僕の中で何かがざわめいた。 「ねえ、キャビティ。あなた、信じる？」 「何を？」 「運命ってやつ」 僕は答えられなかった。だって、僕は信じていない。でも、もし信じていないはずなのに、ここに来てしまったとしたら？ 「それより、どうして僕の名前を……？」 カヴィーナは微笑んだ。まるで、ずっと昔から僕を知っていたような顔で。 「だって、あなたは“選ばれた者”なんでしょう？」 ⚡ゴロゴロ……⚡ 突然、奥歯の空気が震えた。どこかで遠雷が響いたような錯覚。いや、違う──これは……！ 「くるわよ……！」 カヴィーナが僕の手を引いた。その瞬間、僕たちの足元を、白い奔流が襲った！ 🌊💨 “唾液の津波”！！！💦💀 僕たちは流された。甘美なる奥歯の楽園は、一瞬で激流の奈落へと変わった。 「つかまって！」 カヴィーナの声が聞こえた。僕は必死に彼女の手を握った。でも、勢いが強すぎる！ このままじゃ……僕たち、洗い流される！？ ＊ 「甘い地獄へようこそ🍭💀」 僕たちは唾液の津波に飲み込まれた。白く泡立つ奔流は、奥歯の楽園を一瞬で地獄に変えた。 🌊💨 ゴオォォォ……！！ 💦💥 「うわああああ！！！」 「キャビティ！手を離さないで！」 カヴィーナの声が遠くなる。だめだ、指が滑る……！ 💔 つるっ……！ 「カヴィーナ！！！」 僕の手は彼女の指を捉えきれず、泡の中へと沈んでいった。 視界はぐるぐると回転し、口腔内の闇が僕を呑み込む。これは……まずい……！ ⚫ 意識が……遠の……く…… ⚫ 気がつくと、僕はどこかの柔らかい地面に転がっていた。 「……ん、ここは……？」 起き上がると、甘い香りが鼻をついた。周囲はねっとりとした薄暗い空間。上からはトロリとした液体が滴り落ちている。 🍯 “糖の洞窟” 🍬 [ (2) に続く ]