こんばんは、初めまして。私の名前はマリア。年齢？ まぁ、それは想像に任せるけど。今、仕事が終わったばかりで、こうして夜の街を少し散歩しているところ。昼間はスーツを着てると固すぎるけど、夜になるとこの黒のジャケットが妙にしっくりくるのよね。ボブにカットしたこの金髪も、夜の街灯に映えるし、何より顧客に覚えてもらいやすい。私が何をしているかって？　ふふ、ちょっとした夢を売る仕事をしているの。 いわゆる、イベントプロデューサーってところかしら。派手なパーティや高級ホテルの大規模なイベントなんかを企画して、裏から表まで、全てを仕切るのが私の仕事。まぁ、業界の人たちはみんな「ドリームマネージャー」なんて呼ぶけど、正直、自分でもそんなに特別だとは思っていないの。ただ、どこかで誰かが人生の一瞬に求める完璧な瞬間を創り上げるのは、確かにやりがいがある。でもね、それだけじゃない。夢って言っても、実際はもっと現実的な泥臭さがあって、いつもそう華やかなわけじゃないのよ。 今日の現場は大手の企業が企画した、億単位で動く巨大イベントの打ち合わせだった。場所は港区にある高層ビルの最上階。参加するのは経済界のトップクラスの人々よ。スーツの似合うイケメンなんて一握りで、だいたいが退屈な話しかしないおじさんばかり。会議室の窓から見える景色が唯一の救いで、東京の街並みが光り輝いているのを見ていると、少しだけ自分もこの街の一部だと感じる。 だけど、現場が終わって外に出ると、この夜の風景の冷たさが一気に襲ってくる。私がこの仕事を始めたのは、何か特別な理由があったわけじゃない。ただ、昔から人を喜ばせるのが好きだったの。けどね、今になって思うの。人を喜ばせるってことは、すごく消耗するんだなって。誰かが満足するたびに、少しずつ自分の中のエネルギーが減っていく感じ。 でも、不思議なことに、その疲れが悪いわけでもない。今日もまた、スーツを着こなし、顧客と交渉して、理想のイベントを描き出す。そしてまた、別の誰かの夢を叶えるために走り続ける。それが私、マリア。表情には余裕があるように見えても、心の中では常に新しい問題やプレッシャーが渦巻いている。でも、そんなこと誰にも悟られないように、いつも軽く微笑んでみせる。そうすれば、相手は私を信頼してくれる。私に任せれば、完璧な夜を約束できるって思わせるのが大事なの。 さて、これからの夜、どう過ごそうかしら。時には、誰かが主催する華やかなパーティに顔を出すこともある。けど、今日は少し静かに過ごしたい気分。そう思って、路地裏のバーへ足を向ける。オーナーとはもう何年もの付き合いだから、黙って席に座れば、いつものウィスキーが出てくる。街の喧騒を遠くに感じながら、ほっと息をつくこの瞬間が、私にとってのささやかな幸せ。 でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。私にはまだ多くの夢を叶えなきゃならないから。クライアントの夢、自分の夢、そして誰かが私に託したかもしれない夢。生きるってそういうことよね。夢を追いかけるか、夢に追いかけられるか。そのどちらかしかない。 だから、また明日も、私はこの夜の街を歩く。そして、きっと何かを手に入れて、何かを失っていく。それが私の生き方。