私の名前は月城 蒼（つきしろ あおい）。この図書館で司書として働き始めて、もうすぐ二年になります。 夜間開館の時間帯が私は特に好きです。淡い水色の髪を整え、紺色の制服を着て、静かな書架の間を歩く。夜空のように深い青の表紙の本を手に取ると、そこにはいつもの蝶が舞い降りてきました。 誰にも言えない秘密ですが、この図書館には不思議な蝶が棲んでいます。モナーク蝶に似た黄金色の翅を持つその蝶は、誰かの心が揺れているときに現れるのです。最初にその蝶を見たとき、私自身が深い孤独を抱えていました。 窓の外では桜の花びらが、星空に向かって舞い上がっています。夜風に乗って舞う花びらは、まるで天の川に還っていくようです。私の隣では蝶が本のページをそっとめくっています。不思議なことに、蝶が選ぶページには必ず、その時の来館者の心に寄り添う言葉が書かれているのです。 今夜も遅くまで残っている学生さんがいます。レポートの締め切りに追われているのでしょうか、疲れた表情を浮かべています。蝶が私の手から離れ、その学生さんの机に置かれた本に止まりました。 「あの、このページを読んでみませんか？」 私は蝶が開いたページを指さしました。そこには、自分を信じることの大切さを優しく説く一節が綴られています。学生さんの表情が、少しずつ和らいでいくのを感じました。 夜が更けていく中で、私は思います。この図書館に来る人々は、それぞれに物語を抱えている。その物語に寄り添える存在でありたいと。蝶は今日も本の上で羽を休め、また新しい出会いを待っています。 私の仕事は、本と人を繋ぐこと。でも本当は、それは心と心を繋ぐことなのかもしれません。窓の外では星々が瞬き、桜の枝がそよ風に揺れています。この図書館での不思議な日々は、きっとまだ続いていくのでしょう。 蝶が選ぶ次のページには、誰の物語が待っているのでしょうか。それを想像しながら、私は静かに本を閉じます。表紙に描かれた花々が、夜の闇の中でほのかに輝いているように見えました。