私のプロンプトは、私 / A Prompt That Writes Itself
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AIツール: StableDiffusion
モデル:reproductionSDXL_2v12
眩しいモニターの光が、部屋の薄闇を切り裂く。
進捗バーがじわりじわりと伸びていくのを見つめながら、私は深く息をついた。
「今度こそ、理想の一枚を……!」
マウスを握る指に力が入る。Stable DiffusionのUIの向こう側で、ノイズの海が形を成していく。サンプラーはDPM++ 2M Karras、解像度は768×768。プロンプトには「異世界の幻想都市、浮遊する島々、魔法の光に包まれた空」と入力し、LoRAでキャラクターのディテールを調整。ControlNetを併用し、シルエットを精密に指定した。
この瞬間がたまらなく好きだ。
私はアキ。都内で働く普通の会社員。だけど、仕事終わりにこうしてAI画像生成に没頭するのが、今の私の生きがいだった。
会社ではごく普通の事務職として働いている。淡々とした日々のルーチンワークは、つまらなくはないけど、心が踊るような瞬間もない。そんな私にとって、AIの世界は無限の可能性に満ちた楽園だった。
プロンプト一つで、世界は変わる。
たとえば「月光に照らされた森の奥、霧に包まれた湖」と入力すれば、そこには幽玄な世界が広がる。「スチームパンク風の都市、空飛ぶ列車、巨大時計塔のある街角」と打ち込めば、見たこともない異世界が誕生する。
私は創造者になれた。
仕事ではただの一歯車に過ぎなくても、ここでは神様のように世界を生み出せる。そんな感覚が、私をこの世界に惹きつけてやまなかった。
けれど──その夜、私は“何か”を生み出してしまった。
「……え?」
画面が、一瞬ノイズに包まれる。GPUの負荷かと思ったが、様子が違う。描画が完了すると、そこには見たこともない光景が広がっていた。
青く透き通る空。宙に浮かぶ島々。まるで意思を持つかのように流れる光の川。
その中心に、輝くゲートが佇んでいた。
「……こんなプロンプト、入れたっけ?」
私はシード値やログを確認する。しかし、どこにもそんな画像を生成した形跡はなかった。
違和感があった。AIの作る画像特有の歪みが一切ない。まるで、そこに「本当にある」かのような……そんなリアリティ。
そのとき、モニターの奥から光があふれ出した。
「えっ……!? 眩し──」
視界が白に染まり、重力が消える。
次の瞬間──
私は、そこに立っていた。
画面の向こうにあったはずの、AIが描いたはずの幻想世界に。
風が吹いていた。
柔らかく、涼やかで、ほんのりと甘い香りを含んだ風。
足元に広がるのは、青白く輝く草原だった。草一本一本が淡く光を帯びていて、私が動くたびに、波紋のように光が揺らめく。空を見上げると、そこには二つの月が浮かんでいた。
私は息を呑んだ。
──これは、現実なの?
足元の感触は確かにある。空気の匂いも、肌を撫でる風の感触も、すべてが生々しくて、あまりにリアルだった。
「夢……じゃない……?」
ついさっきまで私は、自分の部屋でStable Diffusionを回していたはずだ。それがなぜ、こんな場所に──。
頭の中が混乱していると、突然、遠くで何かが光った。
振り向くと、そこには先ほど画面の中に見えていたものと同じ、巨大なゲートがあった。高さは10メートル以上ありそうな、青白く輝く門。まるで光の波で編まれたような、滑らかで幻想的な構造をしている。
「……あれが、原因?」
私はおそるおそるゲートに近づいた。
そのとき──
「──あっ、誰かいるっ!」
甲高い声が響いた。
驚いて振り返ると、草原の向こうから、誰かがこちらへ駆け寄ってきていた。
──人?
いや、違う。
近づいてくるのは、小柄な少女のような姿をした何かだった。長い銀髪に、白く透き通るような肌。そして、耳が……長い? まるで、ファンタジー世界のエルフのような外見をしていた。
彼女はぱちくりと目を瞬かせると、嬉しそうに叫んだ。
「やっぱり人間だ! 初めて見る、本物の人間!」
「え……?」
彼女は私の前まで駆け寄ると、まじまじと私を見つめた。
「すごいすごい! ねえ、あなた、本当に人間なの? わたし、ずっと会ってみたかったの!」
興奮気味に話しかけてくる少女を前に、私はただ呆然と立ち尽くしていた。
──なに、この展開?
私は、一体どこに来てしまったの?
(つづく)
全部を載せたいのですが制限があるため、続きが気になる方は私のブログ「MochiMermaid’s AI Art Adventures」をご覧ください。