「また炎上案件か...」 今朝もスマホの通知音で目が覚めた。SNSの急上昇ワードに自社の名前が躍り出ていた。最近は毎週のように何かしらの騒動が起きている。 私、山田美咲。32歳。大手日用品メーカー・サンライズの広報課長。 部下からの着信が鳴る。「課長、大変です！例の投稿、いいね数が30万を超えました」 「わかった、すぐ行く」 急いでスーツに着替えながら、鏡に映る自分の疲れた顔を見つめた。 入社10年目にして最年少で課長に抜擢された私だが、最近のSNSの荒波には正直心が折れそうになっている。古参社員からは「若手だから任せられる」と期待の眼差しを向けられるが、その実、私自身もこの変化の速さについていけているのか自信がない。 オフィスに着くと、広報部のフロアはすでに騒然としていた。 「課長！会議室に集まってます！」 新人の田中が真っ青な顔で駆け寄ってきた。入社3ヶ月の彼女は、Z世代の特徴である自由な発想と行動力を持っている。だからこそ任せていた新商品のSNSキャンペーン。まさかこんなことになるとは。 会議室に入ると、モニターには問題の投稿が大写しになっていた。我が社の新商品「エコウォッシュ」の環境への取り組みを批判するツイートが、驚異的なスピードで拡散されている。 「これ、完全に意図が伝わってないですよね...」 田中が小さな声でつぶやいた。確かにその通りだ。私たちが伝えたかった『環境に優しい』というメッセージが、まるで真逆の意味で受け取られている。 そう、これは危機であると同時に、チャンスでもある。 私は深いため息をつきながら、会議室の椅子に腰を下ろした。この危機を乗り越えるためには、従来の常識を覆すような発想が必要だ。そして、それは若手の力なしには実現できない。 「田中さん」 私は彼女を見つめた。彼女の目には、不安と共に何か閃きのような光が宿っていた。 「はい！」 田中の返事には、やや緊張した様子が滲んでいた。彼女は慌ててスマートフォンを取り出す。 「実は...このバズってる投稿、リプライのトレンドを分析してみたんです」 彼女の言葉に、会議室の空気が変わった。みんなの視線が一斉に若手社員に集中する。 「で、でも、まだ完璧な分析じゃないかもしれません...」 「いいの、思ったことを話してみて」 私は優しく促した。若手の意見を潰してしまっては何も始まらない。それは10年前、新入社員だった私自身が痛感したことだった。 田中は深呼吸をして、画面をスクロールしながら説明を始めた。 「批判的なコメントの8割以上が、実は製品自体ではなく、私たちの発信方法に対する不満なんです。特に、Z世代からは『企業の上から目線』という指摘が多くて...」 なるほど。確かに私たちの広報戦略は、どこか従来型の押しつけがましいものだったかもしれない。 「それで、こんなアイデアを考えたんですが...」 田中は恐る恐る続けた。「批判してる人たちを、逆にプロジェクトに巻き込むのはどうでしょうか？」 会議室が静まり返った。 ベテランの佐々木部長が眉をひそめる。「批判者を...味方に？」 「はい！」田中の声が少し強くなった。「つまり、『エコウォッシュ』の環境配慮について、ユーザーと一緒に考えていくキャンペーンに切り替えるんです」 私は田中の言葉に、何か可能性を感じていた。確かに荒唐無稽な提案かもしれない。でも、この予測不能な時代、常識にとらわれない発想こそが必要なのではないか。 「具体的にはどんなことを考えてるの？」 私の質問に、田中の目が輝いた。彼女はスマートフォンを置き、立ち上がって説明を始めた。 「まず、批判コメントの投稿者たちを『エコウォッシュ・アンバサダー』として招待します。そして...」 その時、会議室のドアが勢いよく開いた。 「山田課長！社長がお呼びです！」 秘書室の森山さんの声に、私たちは凍りついた。まさか...このタイミングで？ 社長室に向かう廊下で、私は田中の提案を反芻していた。確かに斬新だ。でも、それは果たして実現可能なのか...。 「失礼します」 ドアを開けると、社長の中村はモニターに映し出されたSNSの投稿を眺めていた。 「山田君、座りたまえ」 私は革張りの椅子に腰かけた。社長室の重厚な雰囲気が、今日は特に重く感じる。 「君は、我が社の歴史を知っているかな？」 突然の質問に戸惑いつつ、私は頷いた。創業70年。環境に優しい製品づくりを追求してきた会社。それは誇るべき歴史のはずだった。 （つづく） 全部を載せたいのですが文字の制限があるため、もし続きが気になる方は私のnoteをご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！