焼き色の向こう側へ / Seasoned with Time
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AIツール:その他
モデル:flux1-schnell
カンッ──硬い音が響く。まるで、どこかの鍛冶場から聞こえてくるような、無骨で力強い音。
私は、その黒々とした丸い鉄の塊をじっと見つめた。ずっしりとした重みが手に食い込む。新品の頃よりも、どこか深みのある黒光りをしている。鍋底の焼き色がまだら模様になっていて、使い込んだ時間がそのまま刻まれているようだった。
「今日もよろしくね」
私は鉄フライパンにそっと話しかける。変な習慣だと思う人もいるかもしれない。でも、これはもう、ただの道具じゃない。ただの料理器具でもない。これは、私と共に成長してきた相棒なのだ。
最初にこの鉄フライパンを手に入れたのは3年前だった。その時の私は、正直言って不安でいっぱいだった。
「お手入れが大変」「すぐに錆びる」「重くて扱いづらい」──ネットで調べれば、そんなデメリットばかりが目に飛び込んできた。
それでも、どうしても試してみたかった。あの、カリッと香ばしいステーキの焼き目。パリッと仕上がる鶏肉の皮。鉄フライパンでしか出せないと言われる、あの魅惑の焼き上がりに憧れたのだ。
思えば、私は昔から「面倒くさそうだけど、やってみたいこと」に惹かれる傾向があった。料理にしても、手間のかかるレシピほどワクワクする。子供の頃、母がしていた糠漬けの手入れを「大変そうだね」と言ったら、「でも、こういうのって愛情だから」と母が笑ったのを覚えている。
愛情か。そういえば、鉄フライパンも似ている。使えば使うほど、自分になじんでくる。お手入れすればするほど、育っていく。油が染み込み、表面が滑らかになり、最初は焦げ付きやすかったのに、気づけばすべすべと食材が踊るようになっていた。
最初に焼いたステーキのことを、今でも覚えている。
ジュワァァァ……🔥
熱した鉄の上に置いた瞬間、肉が暴れるように焼きつく。立ちのぼる煙、じゅうじゅうと奏でられる音。台所に広がる、香ばしい脂の匂い。そのすべてが、「あぁ、これだ!」と私の中の何かを刺激した。
こんがりと焼けた表面の美しさ。ナイフを入れたときの、カリッとした手応え。その下には、肉汁を湛えた柔らかな赤身。
「うわっ、めっちゃ美味しい……!」
夫も、子どもたちも、口をそろえて驚いたような声を上げた。
それまでの私は、料理が「そこそこ得意」くらいの主婦だった。でも、この日を境に「料理が好き」になった。鉄フライパンが、私の料理に自信をくれたのだ。
今では、朝の目玉焼きから、夕飯のハンバーグ、週末のチャーハンまで、このフライパンが活躍しない日はない。
もちろん、手入れを怠れば錆びるし、ちょっとしたミスで焦げつくこともある。でも、それもまた、「育てる」楽しさの一部なのだ。
私は今、台所で鉄フライパンを熱しながら、ふと考える。
「このフライパン、10年後も私と一緒にいるのかな?」
たぶん、いるだろう。いや、きっといる。もしかしたら、その頃には子どもたちが「お母さんの鉄フライパンで作った料理が食べたい」なんて言うかもしれない。
そんな未来を想像しながら、私は今日も鉄フライパンを火にかける。
ジュワッ──🔥
いつもの音が、今日も心地よく響いた。
🍳
ジュワァァァ……🔥
今日も、鉄フライパンがご機嫌な音を奏でている。表面に敷いた油がキラキラと輝き、その上で肉が踊るように焼かれていく。香ばしい匂いが広がり、私は思わず鼻をくすぐる湯気に顔を寄せた。
「うん、今日もいい焼き色✨」
鉄フライパンと過ごす日々は、もう当たり前になった。でも、決して「普通」ではない。毎回、少しずつ違う。食材の水分量、火の強さ、油の馴染み具合──ほんの少しの違いで、仕上がりが変わる。だからこそ面白い。
今日はハンバーグを焼いている🍳🔥 ひき肉をこねるときに、ちょっと牛脂を混ぜたから、ジューシーに仕上がるはず。
ふと、背後から小さな気配がした。
「お母さん、なに作ってるの?👀」
娘の芽衣だ。小さな手をキッチンカウンターにかけて、じっとフライパンを見つめている。
「ハンバーグだよ🍖✨」
「鉄のフライパンで焼くと、美味しくなるの?」
「うん、すごくね、カリッとしてて、中はふわっとジューシーになるのよ💖」
「へぇ~🤔」
娘は興味津々の顔をして、じっとフライパンの中をのぞき込んでいる。そういえば、私が子どもの頃も、母の手元をこうして見ていたっけ。あのときは、糠床をかき混ぜる母の手の動きを、何度もじっと見つめていた。
「やってみる?」
「えっ、いいの⁉️」
(つづく)
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