こんにちは、私は七瀬 真由（ななせ まゆ）って言います。今は小さな町の端っこにある、ちょっとレトロなカフェでウェイトレスをやっています。見た感じでわかると思いますけど、この制服、結構クラシックでしょ？白いブラウスに黒いリボン、フリル付きの襟がちょっとおしゃれ。髪は短めのボブにしてるんだけど、これが一番手入れが楽で、何となく自分に合ってるかなって思ってるんです。 さて、このカフェはね、毎日いろんなお客さんがやってくるんです。静かで落ち着いた雰囲気のこの場所は、ちょっと一息つきたい人たちにぴったりなんですよ。木製の古びた家具が並んでいて、窓から差し込む柔らかい光が居心地の良さを引き立てているんです。なんか、昔にタイムスリップしたみたいな感覚になりますよ。 でも、今日話したいのは、このカフェで出会ったちょっと変わったお客さんの話です。私がこの仕事を始めて、まだ半年も経ってない頃のことでした。 ある日、いつも通りの朝でした。私はカウンターに立って、常連さんたちにコーヒーを淹れたり、焼きたてのクロワッサンを配ったりしていました。そこに、ちょっと見慣れないお客さんが入ってきたんです。彼は一見して普通のサラリーマンっぽい人で、年齢は40代後半くらいかな。髪は少し乱れていて、スーツもシワがついていたけど、何か独特なオーラを感じたんです。 その男性は、店に入ってきた瞬間、まるで何かを探しているかのように店内を見回していました。私が「いらっしゃいませ」と声をかけると、彼は一瞬驚いた表情をして、すぐに小さな微笑みを返してくれました。それでも、どこか不安そうな様子で、彼は一番奥の席に座りました。 「メニュー、お持ちしますね」と言って、彼のテーブルに向かうと、彼は「ありがとう」と小さな声でつぶやきました。その時、彼の目が少し潤んでいるのが見えたんです。「大丈夫ですか？」と聞くと、彼はためらいながらも、「ちょっと疲れていてね」とだけ言いました。 それから彼は、静かにブラックコーヒーを注文しました。私もそれ以上は深く聞かずに、ただ彼の様子を見守っていました。 数日後、また彼が店に来ました。今度はスーツもちゃんとした状態で、表情も少し明るく見えました。「また来てくれてありがとうございます」と声をかけると、彼は軽く笑って「ここは、静かでいい場所だね」と言いました。どうやらこのカフェが、彼にとって特別な場所になりつつあるようでした。 その後、彼は頻繁にカフェに来るようになりました。ある日、私は少しだけ勇気を出して、彼に話しかけました。「いつもお忙しそうですけど、何か特別な理由があって、ここに来るんですか？」と。 すると彼は少し黙った後、ゆっくりと語り始めました。「実はね、妻が亡くなってから、ずっと心が落ち着かなくて。あの頃、彼女と一緒に過ごした時間を思い出すために、こうして一人でカフェに来るんだ。でも、このカフェに来ると、少しだけ彼女とまた会える気がするんだよ。」 私はその話を聞いて、胸がギュッと締め付けられるような感覚になりました。どう返事をすればいいのかも分からず、ただ彼の隣に立って、そっと「そうなんですね」とだけ言いました。 それから彼は、少しずつ前向きになっていったようです。彼がカフェに来るたびに、少しずつ元気を取り戻していく姿を見るのが私の楽しみでもありました。そんな彼の姿を見て、私も仕事のやりがいを再確認しました。人の心を癒す場所で働くことが、こんなにも大切なことだなんて、思ってもみなかったんです。 そしてある日、彼はいつものようにカフェに来て、こう言いました。「今日、久しぶりに彼女の墓参りに行ってきたんだ。もう大丈夫だって、彼女に伝えたよ。君のおかげでね。」 その言葉を聞いた瞬間、私は本当に感動してしまいました。彼にとっての「大切な場所」に、このカフェがなれたこと、そして私が少しでも彼の支えになれたことが、本当に嬉しかったんです。 その後、彼は新しいスタートを切ることを決めて、仕事に戻ることにしたそうです。それからは、彼がこのカフェに来る回数は減りましたが、時折ふらりと顔を出してくれることがあります。その度に、彼がどんどん前に進んでいく姿を見ることができるのが、私の小さな喜びです。 そんな感じで、私がウェイトレスとして働いているこのカフェは、ただコーヒーを提供する場所じゃなくて、誰かの心のよりどころになる場所でもあるんです。そして、そんな場所で働けていることが、私にとっての誇りです。 この小さなカフェで、また新しい出会いや物語が生まれていくのを楽しみにしながら、今日もおいしいコーヒーを淹れています。