「全員が黒の傘を差していたのに、なぜあなたは“ピンクの傘”の女を見たと？」 刑事は男にそう問いかけた。 男は震えながら答えた。 「彼女だけ、色が…見えたんです。まるで世界の中で、そこだけが生きていた」 数日前、雨の日の繁華街で発生した謎の失踪事件。 行方不明になったのは3人。 いずれも同じ時間、同じ場所にいたとされるが、唯一の目撃者が語るのは「ピンクの傘の女」に関するものだけ。 だが警察は頭を抱える。 その時間帯の監視映像には、ピンク色どころか、鮮やかな色味は一切映っていない。 むしろその“女”の姿すら、記録には残っていなかった。 調査が進むにつれ、過去にも同様の目撃証言がいくつも見つかる。 ピンクの傘。黒い群衆の中で、ただ一人色を持つ存在。 そして彼女が現れた後には、必ず“誰か”がこの世界から消える—— 「彼女が最後に見せる色が、その人の“記憶の最期”になるのかもしれません」 刑事の手帳には、ひとつの言葉が走り書きされていた。 “色を見た者から、世界は消える”