私の名前は沙耶。ここ、広がる麦畑の真ん中で、私は自分の思いを感じていた。風が穂をなびかせて、麦畑が揺れ動くたびに、まるでその中に自分が溶け込んでいくような気がする。この場所には、都会の雑音がまるで届かない。耳に入ってくるのは、ざわめく麦の葉音と、遠くから聞こえる小鳥のさえずりだけ。優しい陽光が私の髪を照らし、麦畑全体を金色に染めていた。 私の髪は明るい茶色で、少し光が当たると柔らかな金色に見える。前髪は顔にかからないように軽く分け、耳には小さな麦の穂を挿してみた。今日着ているのは、白いブラウスと黒のサスペンダー付きスカート。シンプルで、少しだけ田舎の香りがする服。でも、この麦畑に立っていると、不思議とそれが自分に合っている気がするんだ。ブラウスの襟元には細かな刺繍が施されていて、それがまるで自然の中の繊細な花々みたいで、私の気持ちを穏やかにしてくれる。 日差しが柔らかく、全体的に明るい色彩の中、私の影が麦畑に長く伸びるのが見える。澄んだ青空の下、畑はどこまでも広がっている。この広大な景色に包まれていると、今まで考えもしなかったことが頭に浮かんでくる。私はここで何をしたいんだろう。どんな未来を目指しているんだろう。この場所に立って、私は自分の内側にある、まだ言葉にできない何かを感じていた。 そういえば、この場所に初めて来たのは、友達の美咲に連れてきてもらったからだった。彼女はこの辺りで育った子で、麦畑は彼女にとって特別な場所らしい。都会から引っ越してきた私にとっては、ただ広いだけの畑だった。でも、彼女がここに来るたびに私を誘ってくれて、いつの間にかこの場所が私にとっても大切な場所になっていたんだ。 風が強く吹くと、麦が一斉に揺れて波のように見える。その光景は何度見ても心が落ち着く。今は、ただ風に身を任せて、自分を見つめ直す時間だ。美咲とここで笑い合ったこと、涙を流したこと、そして一緒に見た夕焼けの色まで、全てが鮮明に思い出される。だけど今は一人きり。この静かな時間が、私の心に深く染み込んでいくのがわかる。 私の目の前には広がる未来があって、でもその未来がどうなるかなんて、まだわからない。ただ、ここにいると自分がどこかへ行くべきだと感じる。都会に戻って、進学して、何かにならなくちゃいけないっていう焦りもあるけど、今はただ、この場所にいたいんだ。麦畑の中に立って、風を感じていると、そんな小さな悩みが少しずつ遠ざかっていく気がする。 遠くの空に、飛行機雲が一本、ゆっくりと伸びていく。どこか遠くへ飛び立っていくその姿に、少し憧れを感じる。私もいつか、ここから飛び立つ日が来るのかな。どんな場所に行って、どんな人と出会うんだろう。でも、それは今考えることじゃない。今は、この瞬間、この場所で感じるすべてを、大切に胸に刻みたい。 麦畑の中で私は、少しずつ自分を理解していく。自分が本当に望んでいることは何なのか。どこへ行きたいのか。答えが出るわけではないけれど、心の中の小さな声が、私に何かを囁いているのを感じる。それは、「大丈夫だよ」というような、優しい声。 いつか、ここを離れる日が来るのかもしれない。その時は、この麦畑の風景を、今日感じた風を、きっと思い出すだろう。この瞬間が私にとって、どれだけ特別なものかを忘れないように。麦畑は私の心に、しっかりと刻まれているから。 未来がどんな風に広がっているのかはわからない。でも、私は確かにここにいて、この風を感じている。それだけで、今は十分なんだ。 -------- この投稿、気に入っていただけたら嬉しいです！ハートマークタップで応援してね！