夜の帳が静かに降りる。昼間の喧騒が嘘のように消え、郊外の小さな町は、まるで宇宙の片隅にひっそりと存在する星のように、孤独と静寂に包まれていた。 山田は、くたびれたスーツの襟を直しながら、公園のベンチに腰を下ろした。ため息が漏れる。今日もまた、何の感情も湧かない一日が終わった。会社と家を往復するだけの日々。誰とも言葉を交わさないまま時間が過ぎ、気づけば40歳になっていた。 離婚して三年が経つ。元妻の名前を口にすることはもうない。息子の顔も、最後に見たのがいつだったか思い出せない。最初の頃は「会いたい」と思った。けれど、月日が経つにつれて、その気持ちは砂時計の砂のように静かに消えていった。 「俺は、何のために生きているんだろうな」 そんな言葉を、誰に言うでもなく呟いてみる。けれど、答えは夜の闇に溶けていくだけだった。 ふと、隣のベンチに視線を向ける。そこに、ひとりの少年が座っていた。白いシャツに短パン、肩には小さなリュックを背負っている。まだ10歳くらいだろうか。足をぷらぷらさせながら、じっと夜空を見上げていた。 「……おじさん、星知ってる？」 少年が、不意に口を開いた。 [ (2) につづく]