こんばんは、初めまして。私の名前は月森凛子、二十一歳です。この場所、ここは『月の穂原』って言うの。十五夜の夜にだけ、こんなに大きな月が昇るんだよ。この穂が風に揺れる音を聞きながら、夜が深まっていくのを見守るのが私の特別な時間。 私はゆっくりと草の上に腰を下ろし、涼しい夜風を感じながら、静かに語り始める。いつも着ているオーバーオールに包まれた私の体は、自然の中で心地よい自由を感じている。オーバーオールって、どこか無骨だけど、動きやすいし、なんだか安心するんだよね。特にこの青色のものは、月の光を浴びるとまるで夜空の一部みたいに見えるからお気に入り。 ここにいると、五感が研ぎ澄まされる。穂が擦れ合うシャリシャリという音、風が頬を撫でる感触、そして月明かりが静かに照らすこの黄金色の風景。耳をすませば、遠くから虫の鳴き声が微かに聞こえてくる。あの大きな月が空に浮かんでいると、すべてが穏やかで、完璧な瞬間に包まれる気がするの。 「ここに来るとね、なんだか不思議と心が落ち着くんだ。悩みごとも、疲れも、全部この広い空と月に吸い込まれていくみたいに感じるの。昔から、困ってる友達がいると、私はすぐに助けたいって思っちゃうんだ。そうすることで、私自身も強くなれる気がしてね。仲間って、そういうものでしょ？」 そう言いながら、私は微笑んだ。風が私の髪を少しだけ揺らし、肩までの短い黒髪がふわりと浮かぶ。その瞬間、私の胸には、今日ここで果たさなければならない約束がよみがえってきた。 「実はね、ここにいるのは、約束があるからなんだ。昔、幼なじみの奏太と、この十五夜の夜に必ず再会しようって約束したの。あの時もこんなに美しい満月だった。私たちはいつも一緒で、どんな時も支え合ってきたんだ。でも、彼は突然遠くの町へ引っ越してしまって、それ以来、連絡も途絶えがちになってしまった。」 そう、奏太。彼との思い出は、今でも鮮やかに私の心の中で輝いている。二人でこの場所で語り合った未来の夢や、笑い合った瞬間のすべてが、今夜の風景と重なり合う。 「でもね、私はずっと待ってたんだ。この十五夜の夜、奏太がここに戻ってくるって信じて。何年経っても、私はこの場所で待ち続けるって決めたんだ。」 遠くで風の音が強まり、穂が波のように揺れる。それと同時に、背後から微かな足音が聞こえた。振り返ると、そこには大人になった奏太が、昔と変わらぬ優しい笑顔で立っていた。 「凛子、待たせてごめんね。約束、守りに来たよ。」 その瞬間、胸の奥が温かくなった。彼が私を覚えていて、ここに来てくれたことが、まるで月の光のように私を包み込む。お互いに目を合わせるだけで、言葉がなくてもすべてが伝わった。 「奏太、来てくれてありがとう。」 私たちは長い間、言葉を交わさずにただそこに座り、月の穂原を眺めていた。この場所で、また一緒に時間を過ごせること。それが、私にとって何よりの幸せだった。 夜は静かに、そして美しく深まっていく。月の光が穂に反射し、まるで永遠に続くかのような黄金の波が広がっていく。この風景と、この瞬間を、私はずっと大切にしていこうと思う。 「ねえ、奏太。またここに、十五夜の夜に来ようね。」 そう誓いながら、私たちは再び未来への約束を交わした。