はじめまして、わたしの名前は瑠璃（るり）。年は22歳で、どこにでもいそうな、ただしちょっと好奇心旺盛な女の子よ。今日は、こんな風に秋の陽射しが優しく街を包むなか、いつも通りぶらりとこの坂道の街にやってきたの。ここは『風舞坂（かぜまいざか）』っていう小さな坂の多い街で、特に夕暮れ時には穏やかな風が吹き抜けて、ほんの少しだけ切ない気分にさせてくれるの。昔からこの街が大好きで、何も予定がなくてもついつい足を運んじゃうんだ。 今日もお気に入りの黒い大きな帽子をかぶってきたの。秋の色に合わせて、オレンジ色の小さな花を飾ってみたのだけど、どう？おしゃれに見えるかな？この帽子は風が吹いても、頭から飛んでいかないように工夫されているんだから安心してね。お気に入りの黒いジャケットは、少しミリタリーテイストで、無骨だけどファッションのアクセントになるの。中には青いデニム生地のワンピースを着てるんだけど、こういうカジュアルな組み合わせが一番好きなのよね。重くならず、どこにでもいけちゃう感じで、風舞坂にはぴったりだと思うの。 今日は何をしにきたのかって？ふふ、それはね、ちょっとした冒険よ。この街には、風が語る秘密があるって言われてるんだって。もちろん、そんなの子供の頃のお話だって思う人もいるけど、わたしは違うの。だって、何か感じるものがあるんだもの。たとえば、この坂道の曲がり角でふいに吹く風。それはただの風じゃない。まるで誰かが「こっちにおいで」って誘ってるみたいに感じるの。 だから、わたしはその風に導かれるままに歩いていく。今日はちょっと特別な予感がしてるんだ。風舞坂の頂上には小さなカフェがあるんだけど、どうやらそこに向かっているみたい。ここは、古い洋館を改装したレトロな雰囲気が漂うカフェで、風がよく通るように窓が大きく開かれているの。外には木漏れ日が溢れるテラス席があって、いつも心地よい風が吹いてる。まさに風舞坂の名にふさわしい場所だわ。 カフェに着くと、カウンターでおじいさんがコーヒーを淹れてる。彼はこのカフェの主人で、無口だけど優しい目をした人なんだ。わたしはいつもカフェオレを頼むんだけど、今日は何か違うものにしようかな。そう思って、メニューを見ながら迷っていると、ふいにあの風が吹いた。まるで「ここに何かあるよ」ってささやいてるみたい。わたしは風の導く方向に目を向けると、古びた本棚が目に入った。カフェの一角に置かれているその本棚には、古い本や雑誌がぎっしりと並んでいる。 その中に、一冊だけ妙に目立つ本があった。赤い背表紙に、金色の模様が彫られていて、とても古そうな本だった。わたしはそれを手に取ってみた。すると、意外にもその本は軽かった。まるで中が空っぽみたいに。それにしても、この本、一体何なんだろう。興味を引かれたわたしは、カウンターのおじいさんに尋ねてみることにした。 「この本、何か特別なものなんですか？」と聞くと、おじいさんは少し驚いた表情をしたあと、微笑んで言った。 「それは、風が選んだ客にしか見えない本だよ。」 わたしは思わず笑ってしまった。「そんなの冗談でしょ？」と言いかけたけど、彼の真剣な表情に言葉を飲み込んだ。どうやら本当にその言葉には意味があるみたい。 「この本を手に取ったなら、今日、何か特別なことが起こるかもしれないね。楽しみにしているといい。」そう言って、おじいさんはまたコーヒーを淹れ始めた。 何だかワクワクするわ。風舞坂にはやっぱり秘密が隠されているのかも。わたしはその本を持って、テラス席に座ることにした。そよ風が頬をなで、木々の葉がささやく音が聞こえる。まるで何かが始まる予感がする瞬間だった。 本を開くと、最初のページには「風を信じる者よ、このページをめくれ」とだけ書かれていた。ドキドキしながらページをめくると、そこには……。 （この続きは、あなたがここに来た時に教えてあげるわ。風が導いてくれる日が、きっと近いうちにやってくるから。) 今日はそんな風に過ぎていくの。風舞坂には、まだまだ秘密がたくさん隠されているんだろうな。