私の名前はアリシア。この広大な宇宙にただ一人、艦を操る探査員だ。蒼い髪が微かに揺れる無重力の中、胸元に輝く「アクシオム」を指で撫でながら、私は星々の向こうにある真実を探し求めている。この装置は私にとってただの人工知能ではない。幼い頃から抱いてきた「なぜ私だけがこうして宇宙を漂うのか」という疑問に答えを与えてくれる鍵だと信じている。 コンソールが短く振動し、ディスプレイに警告が表示された。 「近づく星間物質。軌道修正を推奨。」 「了解。」私の声はいつも通り落ち着いていたが、胸の奥は違う。数日前に受信した不明シグナルが私の探査ルートを狂わせた。その波長は未知のエネルギーを含み、まるで意志を持つかのように私を呼んでいた。「未知との対話」――私はその可能性を追っている。 「アリシア、エネルギー波の強度が増加しています。現在の機体では影響が懸念されます。」 アクシオムの冷静な声に、私は肩をすくめて笑った。 「アクシオム、危険がなければ冒険じゃないわ。」 彼は一瞬沈黙したが、すぐに「了解しました」と短く答えた。私たちのやりとりはどこか人間らしい。もしかすると、長い航海の中で彼も成長しているのかもしれない。 目の前に広がる星雲は、虹色の光を放ちながら次第にその密度を増していく。コンソールが再び振動し、未知の波長が艦内に共鳴音を引き起こした。その音は低く深く、どこか懐かしい響きを持っていた。それはまるで心臓の鼓動。胸のアクシオムが反応し、光が一段と強まる。 「アクシオム、この波長……まさか意思を持っているの？」 「可能性があります。ただしデータが不足しており、断定は困難です。」 「なら、私たちで確かめるしかないわね。」 そう言った瞬間、視界が一瞬真っ白になった。探査船の外壁を貫いて入ってきた光の粒子が、私の体を包み込むように漂っている。その光は暖かく、けれど不安定でどこか脆い印象を与える。 光の中から声が聞こえた。それは言葉ではなく、感覚として私の中に流れ込んでくる。「お前は誰だ」とでも問うように。私は息を飲み、胸のアクシオムに手を当てた。 「私はアリシア。この宇宙で、自分の存在理由を探している探査員よ。」 その瞬間、光がさらに強く輝き、私の頭の中に無数の記憶が流れ込んできた。それはこの星雲に眠る古代文明の断片だった。巨大な都市、無数の生命、そして彼らが「未知なる存在」と交信しようとした跡。だが、その試みは失敗に終わり、文明は滅びていた。 「アクシオム、これは……私たちに何を見せたいのかしら？」 「推測するに、彼らの過ちを繰り返さないよう警告している可能性があります。」 「でも、どうして私を選んだの？」 その答えは光の中から再び流れ込んできた。「お前は特別だ」と言わんばかりに。私はその感覚に胸が高鳴るのを感じた。特別。そう、幼い頃から感じていた違和感が、いま解消されつつある。私の血筋には、この星雲と共鳴する何かが流れているのだ。 「アリシア、危険です！エネルギー波が臨界値に近づいています！」 アクシオムの警告が私を現実に引き戻す。光の粒子はさらに密度を増し、探査船を包み込もうとしていた。私はコントロールパネルに手を伸ばし、急いで艦を後退させる。 「まだ帰るわけにはいかない！彼らともう少し対話を……」 しかし、その願いも虚しく、光の奔流は私たちを弾くようにして後方へ押し返した。 探査船が元の航路に戻ったとき、私は放心状態だった。だが胸の奥には、不思議な満足感があった。彼らの声を聞けたこと、そして彼らの歴史を垣間見たこと。それは私の旅の新たな始まりを告げるものだった。 「アリシア、これからどうしますか？」 「もちろん進むわ。これだけじゃ答えは足りないもの。」 胸のアクシオムが淡い光を放つ。私たちの旅はまだ続く。この宇宙のどこかに、私の存在理由の答えが待っていると信じて。 ―――――――― この投稿、気に入っていただけたら嬉しいです！ハートマークタップで応援してね！