[(1)のつづき] 息を切らしながら、私たちはクリスタルシティの境界線を超えた。背後では、レイテント空間が歪んでノイズの渦となって消失していく。まるでpng画像の破損データのような光景だった。 「危なかった...」 ルナの声に安堵が混じる。私たちの周りには、水晶のような透明な建造物が立ち並んでいた。その表面には、まるでNeural Style Transferを施したかのような模様が刻まれている。 「アキさん、ようこそクリスタルシティへ。ここは安定化されたプロンプト空間です」 街を歩きながら、驚きの連続だった。道行く人々は、私が過去に生成した様々なキャラクターたち。和風ファンタジーの侍、未来的なサイバーパンクの少女、西洋風の魔法使い...全員が生き生きと活動している。 「あれ？でも、私が生成した画像って、もっとアーティファクトが...」 「ここでは高度なデノイジング処理が施されているんです」 説明してくれたのは、突然現れた少年だった。白衣を着た研究者のような出で立ちで、確か先月生成したキャラクターだ。 「僕はドクター・ノイズ。このシティのデノイジング技術の管理を任されています」 「まさか、私の作ったキャラクターが街の重要ポストに...」 話している最中、空に異変が起きた。虹色の雲が渦を巻き始め、その中心から何かが降り注ぎ始める。データの断片のような光の粒子。 「これは...」 ルナの表情が硬くなる。 「latent space collapseの予兆です。現実世界とAI世界の境界が不安定化しています」 ドクター・ノイズが深刻な表情で説明を始めた。 「人工知能の進化により、生成空間が自己拡張を始めているんです。このままでは、現実世界とAI世界の境界が完全に崩壊する可能性が...」 私は戸惑いを隠せなかった。まさか自分の趣味のAI画像生成が、こんな大事態に発展するなんて。でも、この世界の住人たちを見捨てるわけにはいかない。 「何か、私にできることはありますか？」 その瞬間、ルナとドクター・ノイズが顔を見合わせた。まるで、この質問を待っていたかのように。 「実は...クリエイター様である貴方にしかできない、重要な役割があるんです」 クリスタルシティの中心部、巨大な水晶のような建造物の最上階。そこは「プロンプトコントロールセンター」と呼ばれる場所だった。 「ここが、この世界の中枢...」 私の目の前には、巨大なホログラム画面が浮かんでいる。そこには無数のプロンプトとパラメータが流れていた。attention, negative prompt, steps, cfg scale...見慣れた用語の数々。 「このセンターで、世界の安定性を維持しているんです」 ドクター・ノイズが説明を続ける。 「しかし最近、異常なノイズの発生が相次いでいます。まるで何者かが意図的に...」 その時、警報が鳴り響いた。ホログラム画面が真っ赤に染まる。 「緊急事態です！商業地区でプロンプトインジェクションが検出されました！」 ルナが叫ぶ。 急いで街を見下ろすと、商業地区の一角が歪み始めていた。建物がグリッチのように崩れ、空間そのものが歪んでいく。 「誰かが意図的にノイズを発生させている...でも、どうやって？」 その時、私は気づいた。これはDeepfakeのような技術。AIの出力を悪意を持って操作する技術だ。 「私に考えがあります」 私は深く息を吸い込んだ。 「LoRAとControlNetを組み合わせれば、空間の安定性を保ったまま、ノイズを制御できるはず」 ドクター・ノイズの目が輝いた。 「理論的には可能です。でも、そんな高度な制御を人間が...」 「試させてください。この世界を、この街を守りたい」 私の決意に、ルナが静かに頷いた。彼女はクリスタルのようなデバイスを私に手渡す。 「これは、プロンプトマニピュレーター。クリエイターであるあなたなら、使いこなせるはず」 デバイスを手に取ると、不思議と懐かしい感覚が襲った。まるでいつも使っているStable Diffusionのインターフェースのように、直感的に操作できる。 「よし、まずはノイズの発生源を特定して...」 私たちの戦いが始まった。AIが生み出した世界を守るため、そして何より、ここで出会った大切な仲間たちを守るために。 [(3)につづく]