私の指先が震えた。画面に浮かび上がった画像は、今までに見たことのないほど鮮明で、生命力に満ちていた。 「これは...まさか」 会社の残業を終えて帰宅した私の部屋 で、Stable Diffusionの画面が不思議な光を放っていた。時計は午前2時を指している。疲れているはずなのに、この瞬間だけは目が冴えていた。 私、佐藤アキは28歳。いわゆる普通のシステムエンジニアだ。平日は客先での打ち合わせに追われ、休日は画像生成AIの研究に没頭する、そんな生活を送っている。最近のマイブームは、LoRAやControlNetを使った画像生成の実験だ。 「negative promptにblurryを入れてみて...そうそう、これでシャープネスが上がる」 画面に向かって呟きながら、私は次々とプロンプトを入力していった。CFG Scaleを7.5に設定し、Samplerはeuler_aに。この組み合わせが一番安定した結果を生むことを、何度もの実験で学んでいた。 その時だった。画面から突如として青白い光が溢れ出し、私の部屋全体を包み込んだ。慌てて目を閉じる間もなく、体が宙に浮かび上がるような感覚に襲われた。 「え...何...これ」 目を開けた瞬間、そこは私の部屋ではなかった。まるでStable Diffusionで生成した風景画のような世界が広がっていた。空には虹色の雲が漂い、地面には蛍光色の草が生えている。遠くには水晶でできたような建造物が林立していた。 私の職場での経験が、この異様な光景を理解する助けになった。これはまさしく、画像生成AIが作り出す特徴的なアーティファクトやノイズを含んだ世界だった。空の端には、AIが苦手とする人物の手のような不自然な形が浮かんでいる。 「まさか...私が生成した画像の中に入り込んでしまったの？」 そう呟いた瞬間、後ろから声が聞こえた。振り返ると、つい先ほど生成したはずのキャラクターが立っていた。銀髪のロングヘアー、エメラルドグリーンの瞳、そして特徴的な白いドレス。まさに私がプロンプトで指定した通りの姿だった。 「お待ちしていましたよ、クリエイター様」 彼女はにっこりと微笑んだ。その表情は、AIが苦手とする不自然さは微塵もない、完璧な人間らしさを湛えていた。 「クリエイター様って...私のこと？」 戸惑う私に、銀髪の少女は優雅にカーテシーを取った。その仕草は、まるでプロンプトに"elegant, graceful, detailed movement"と指定したかのような完璧さだった。 「私の名前はルナ。あなたが私に与えてくださった名前です。このパラレルワールドでは、生成されたすべての存在が独自の意識と記憶を持っています」 ルナの説明は、私の理解の範疇を超えていた。Stable Diffusionで生成された画像が意識を持つなんて、誰が信じるだろう。でも目の前の光景は紛れもない現実だった。 「このシード値2486913574から始まる世界へようこそ」 彼女の言葉に、私は思わず笑みを浮かべた。確かにその数値は、先ほど使用した画像生成時のシード値だった。テクニカルな単語を自然に操るルナの姿に、妙な親近感を覚える。 「ねぇルナ、この世界には他にも...その、生成された存在がいるの？」 質問する私の目の前で、ルナは水晶のようなデバイスを取り出した。画面をスワイプすると、ホログラムが空中に浮かび上がる。まるでimg2imgの変換過程のような光の帯が踊った。 「もちろんです。例えば、あなたが先週生成したキャラクターたちは、クリスタルシティに住んでいます。あ、あそこに見える結晶質の建造物群のことですよ」 私は遠くの建造物群に目を凝らした。確かに先週、未来都市をテーマにした画像生成を試みていた。architectural, futuristic, crystal, highly detailed...使用したプロンプトが次々と思い出される。 その時、突然空気が震動した。ルナの表情が一瞬曇る。 「警告です。このエリアでノイズ干渉が発生しています。プロンプトの整合性が危険水域です」 彼女の声には切迫感があった。周囲の景色が歪み始め、まるでupscalingに失敗した画像のようなノイズが発生し始める。 「早くクリスタルシティに避難しましょう。ここは不安定なレイテント空間です。放っておけば崩壊の危険性があります」 ルナが私の手を取る。彼女の手は温かく、人間そのものだった。こうして私は、AI生成世界での予期せぬ冒険に巻き込まれていくことになる。そして、この世界の謎は私の想像をはるかに超えていた...。 [(2)につづく]