ツムジ・ハカセの髪は、風がなくても勝手に動く。 少なくとも、そう見えるらしい。 「おい、ハカセ！　またつむじが暴れてるぞ！」 研究所の助手、トグロ・マキが指をさす。 ハカセは頭をぽりぽりかいた。確かに、鏡を見るとつむじが渦を巻いている。しかも、いつもより勢いがいい。 「……地磁気の乱れか？」 「いや、そんな都合よく乱れないだろ！」 未来都市ネオ・トキオ。ここでは、電力不足が深刻な問題になっていた。化石燃料は枯渇し、太陽光発電は大気汚染で効率が落ち、風力発電は都市部では非現実的。それでも、人々は明かりを求め、機械を動かし、文明を維持しようと足掻いていた。 そんな中で、ツムジ・ハカセは気づいてしまったのだ。 人間の「つむじ」こそ、未発掘のエネルギー源なのではないかと。 つむじの回転は、微弱ながら一定のトルクを生む。 もしこれを増幅し、集約できれば——理論上、無限のエネルギーが手に入る。 「俺たちの頭のてっぺんに、未来の希望があるんだ！」 ハカセは叫んだ。 助手のトグロは額を押さえた。 「……聞こえはいいけどな。どうやって利用する気なんだよ？」 「そこだ！」ハカセは勢いよく白衣を翻す。「まずは、つむじの動きをデータ化し、エネルギー変換効率を測定する！　そのためには……」 「そのためには？」 「とにかく、たくさんのつむじが必要だ！」 そう、研究には膨大なサンプルがいる。 左巻き、右巻き、二重つむじ、つむじがない人……多様なつむじを調べることで、最適な発電方式を確立しなければならない。 しかし、それがどれほど危険な道になるか——ハカセはまだ知らなかった。 未来都市のどこかで、彼の研究を狙う影が蠢いていた。 「つむじエネルギー」……それは、人類の未来を変えるかもしれない、禁断の力だった。 ツムジ・ハカセの研究所は、ビルの屋上にある。 正式名称は「ネオ・トキオ未来エネルギー研究所」——と聞こえはいいが、実態はほぼハカセの個人ラボだった。 所狭しと並ぶ機械、つむじ解析用スキャナー、髪の流れを可視化する高性能センサー。 壁一面には、つむじの写真がずらりと貼られている。 「これが世界の未来を変える……！」 ハカセは目を輝かせた。 助手のトグロは呆れ顔で腕を組む。 「で、どうやって大量のつむじを集めるんだ？　まさか街でスカウトするつもりか？」 「その通り！」ハカセは親指を立てる。「つむじモデル募集だ！」 「は？」 「"つむじ美人コンテスト"を開催する！」 「…………」 トグロは深いため息をついた。 ——数時間後。 「第一回・ネオ・トキオつむじ美人コンテスト開催！」 都市の広場に、大胆な看板が掲げられた。 下には、「つむじの美しさ・個性・エネルギー値を測定！」の文字。 無料診断、豪華賞品つき。 「……こんなんで人が来るか？」 「大丈夫だ！　人類は目に見えないものを評価されるのが好きなんだ！」 ハカセの読みは、当たっていた。 広場には、老若男女が次々と集まりはじめた。 「私のつむじ、珍しい形なんです！」 「つむじが二つあるんだけど、特別枠とかあります？」 「エネルギー値って何！？　なんか面白そう！」 人々の興味は、思った以上に強かった。 ハカセはスキャナーを構え、参加者のつむじを次々と測定していく。 データが集まる……つむじエネルギーの秘密が明らかになる……！ しかし、その光景を遠くから見つめる、黒ずくめの男たちがいた。 「……やはり動き出したか」 「つむじエネルギーが表に出るのは、我々にとって都合が悪い」 「処理するか？」 「いや、まずは様子を見よう——」 ネオ・トキオの闇に、静かに忍び寄る陰謀。 ハカセはまだ、この「つむじコンテスト」が世界を揺るがす事件の幕開けになるとは知らなかった……。 コンテスト会場は異様な熱気に包まれていた。 つむじ美人を決めるという名目だったが、ハカセの狙いはあくまで「つむじのエネルギー測定データの収集」だった。 （つづく） 全部を載せたいのですが制限があるため、もし続きが気になる方は私のブログ「MochiMermaid’s AI Art Adventures」をご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！