美咲は、疲れていた。 オフィスビルのガラスに映る自分の姿をちらりと見て、ため息をつく。 朝から晩までパソコンの画面とにらめっこし、残業をこなして帰宅する頃には、もう何もする気が起きない。 運動？そんな余裕、あるわけがない。 帰宅したらすぐシャワーを浴び、ベッドに倒れ込むのが日課だった。 それでも、最近の変化には目を背けられなくなっていた。 スカートのウエストがきつい。階段を上ると息が切れる。肩こりとむくみがひどく、朝起きても疲れが取れない。 「運動したほうがいいのはわかってる。でも……」 ジムに通うのも、ランニングを始めるのも、何もかもが億劫だった。 そもそも、運動なんて昔から大嫌いだったのだ。 そんな自分を変えたいと思う反面、変わる努力をする気力もない。 ため息をつきながら、駅を降りて、いつもの道を歩く。 コンクリートの無機質な街並みに囲まれたこのエリアで、唯一の癒しが、この先の公園だった。 ビルの間にぽっかりと空いた緑の空間。 夜の静寂の中、オレンジ色の街灯に照らされた木々が揺れている。 ふと、視界の端で何かが光った。 「ん？」 美咲は足を止めた。 夜の公園に、蛍？ いや、こんな都会にそんなものがいるはずがない。 淡く光る何かが、木々の間をふわふわと漂っていた。 「え、何これ……？」 まるで星のかけらが宙に浮かんでいるようだった。 美咲は、無意識のうちに光に引き寄せられるように、公園の奥へと歩き出していた。 光は、ゆっくりと、美咲を誘うように動く。 そして、彼女が足を踏み入れた瞬間—— 「やっと、見つけた」 どこからか、澄んだ声が響いた。 「……え？」 美咲は、思わずあたりを見回した。 夜の公園に人影はない。聞こえるのは風が葉を揺らす音と、遠くを走る車のエンジン音だけ。 「こっちだよ」 ——いた。 目の前に、小さな光の粒が舞っていた。 よく見ると、それは蝶のようにひらひらと舞いながら、まるで何かを伝えようとしているようだった。 美咲は息を飲んだ。 まさか、これ……妖精？ 「やっと気づいたね」 そして—— 光の中から、ふわりと現れたのは、手のひらほどの小さな少女だった。 透き通るような羽が背中に揺れ、髪は月の光を反射するように輝いている。 ドレスは薄い葉のようで、全身がどこか神秘的なオーラをまとっていた。 「ふふっ、驚いてるね」 妖精はくるりと宙を舞い、楽しそうに微笑んだ。 美咲は声を出せずに固まった。 疲れてるのかな？ とうとう幻覚を見るようになったのかもしれない。 「違うよ、幻覚じゃない」 「えっ……」 妖精は、くすくすと笑った。 「私の名前はエアリス。健康の妖精だよ！」 「健康……の？」 「そうっ！君の体と心を元気にするために来たの！」 エアリスは胸を張ると、きらきらとした粉をふわっと舞わせた。 「ま、待って！ そんなファンタジーみたいな話、信じられるわけ——」 「じゃあ、証明してあげるね。」 エアリスはくるりと宙を回転すると、指先を美咲の額に軽く触れた。 その瞬間—— 「え……？」 体が、軽い。 長年まとわりついていた重だるさが、すっと消えた。 肩のこりも、足のむくみも、何もかもが軽くなっている。 「うそ……」 「ふふっ、驚いた？ これが私の力だよ。」 エアリスは、にっこりと笑った。 美咲は、自分の腕を上げたり、足を曲げたりして確かめた。 たしかに、全然違う。 「な、何これ……？」 「君が毎日、ちゃんと体を動かしたくなるようにしてあげるの。」 エアリスは得意げにウインクした。 美咲は混乱しながらも、自分の体の変化に驚きを隠せなかった。 これは夢？ それとも……？ 「でもね、魔法の力に頼るだけじゃダメなんだよ。」 「え？」 「大事なのは、君自身が続けること。私が手伝うのは、最初の一歩だけ。」 エアリスはくるくると舞いながら、美咲の前に浮かんだ。 「さあ、美咲！一緒にやってみようよ。」 「……え、今から？」 「もちろん！だって、明日からって言ってたら、一生やらないでしょ？」 「ぐ……」 図星だった。 美咲は、妖精を見つめながら、小さく息をついた。 これは、一体どういうことなのだろう。 でも、確かに—— 「……ほんの少しなら、いいかも……？」 その言葉を聞いた瞬間、エアリスの顔がぱっと輝いた。 「やったー！じゃあ、まずは軽くウォーキングからだね。」 美咲の、新しい生活が、静かに動き出した——。 （つづく） 全部を載せたいのですが文字の制限があるため、もし続きは私のnoteをご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！