美月は、世界の端っこにいるような気がした。 窓の外、灰色の雲がぼんやりと広がる。冬の空はいつもこうだ。何かを期待させるようで、結局なにも起こらない。手元のスマホを開くと、TLに流れてくるのは、どこかの誰かが投稿した写真。痩せた脚、白い肌、暗い部屋の中で映る赤いリップ。 「地雷系メイク」 それは、どこか不安定で、でもとてつもなく美しい世界。 スクロールを止めたまま、美月はふっと息をつく。鏡に映る自分は、ただの「普通の女の子」だった。つまらない。何も特徴がない。母が選んだ清楚な服、整えすぎた前髪、ナチュラルすぎるメイク。ずっと「こうあるべき」と教えられてきた姿。だけど、それは本当に「私」なの？ 指先が勝手に動く。#地雷メイク、#病みかわいい、#儚い女。タグをたどっていくと、同じようにこの世界の片隅で何かを求めている人たちがいるのがわかる。みんな、何かしらの痛みを抱えていて、それを「美しさ」に昇華しているように見えた。 「私も、変われるのかな」 呟くと、胸の奥が少しだけ痛んだ。 美月は、部屋のドアをそっと閉め、机の前に座る。壁際の小さな鏡の前には、母が買い与えた淡いピンクのリップや、ナチュラルベージュのアイシャドウが整然と並んでいる。それを横目に、美月はスマホの画面をもう一度見た。👀✨ 「白い肌、赤い目元、血色リップ…」 指先で画面をなぞる。心臓が少しだけ跳ねる音がする。私はこれまで、誰かに決められた「清楚な自分」を演じてきた。でも、私が本当に求めているのは、"可愛くて、でもどこか壊れそうな自分" なんじゃないか？💔🖤 震える手で、母の選んだコスメを奥に押しやり、引き出しの奥からひっそりと隠していた「本当の私」を取り出した。それは、こっそりドラッグストアで買った赤のアイシャドウと黒のアイライン💄✨ 鏡の中の私は、まだ「普通の美月」。でも、ここから変わる。 まずは、下地をのせる。少しでも白く、儚げな印象にするため、普段のファンデよりも明るめのものを使う。指で伸ばすと、肌がふわっとベールを纏ったように変わる。まるで別の人間になっていくみたい🩶👤 次に、アイシャドウ。 ブラシを使う手がわずかに震える。黒に近いボルドーをアイホール全体にのせて、下まぶたのキワにもふわりと広げる。まるで泣いた後みたいに、瞼が赤く染まる。目の端にそっとラメを乗せると、涙が零れそうな瞳が作られた💔✨😢 アイラインは、普段よりも少しだけ長く、目尻をスッと下げる。タレ目気味のラインが、不安げな少女のような印象を生む👁️🖤 「…いい感じかも」 呟きながら、唇に色をのせる💋🖤 暗めの赤のリップを内側に濃く塗り、指でぼかす。じわりと血が滲んだような仕上がり。それは、どこか痛々しくて、だけど、ものすごく美しかった。 鏡の前の私は、もう「普通の美月」じゃなかった。儚くて、壊れそうで、それでいて強い。 「これが、本当の私かもしれない」 心臓がドクンと鳴った。 🌙✨💔🔪🎭 スマホのカメラを起動し、そっと鏡越しに自分を映す📸💔 シャッター音が小さく鳴り、画面に表示されたのは、いつもの私じゃない。 白く透けるような肌、赤く縁取られた目元、血が滲んだみたいな唇🩸🖤✨ まるでどこかのフィルターをかけたような自分がそこにいた。 「……かわいい」 喉の奥で、そっと呟く。 今までの私なら、こんなメイク「変」「やりすぎ」って言われるのが怖くて、きっと挑戦なんてしなかった。でも今は、違う。誰がどう思おうと、私はこの姿を愛せる気がする。 指先で画面をスクロールしながら、SNSの「地雷メイク」のタグを開く💻🔍 私と同じように、儚げで、どこか病んでいて、それでいて美しい世界を作り上げた人たちがいる。赤いアイシャドウの瞼、頬に描かれた偽の傷跡、泣いた後みたいな濡れたまつ毛💔🎭 「……投稿、してみようかな」 指が、スマホの「＋」ボタンに触れる📱 ほんの数秒、ためらう。 もし誰かに見つかったら？もしバレたら？母は何て言うだろう。学校の友達は？ でも、そんなことを考えているうちに、もう「地雷メイクの私」はここにいる。 なら、認めてもらえなくてもいい。私が、私を認める。 添える言葉は、一言だけにした。 「本当の私って、こんな感じかもしれない。」 投稿ボタンを押した瞬間、心臓がドクンと跳ねた💓🔪 何かを壊してしまったような気がしたけど、それはたぶん、悪いことじゃない。 それよりも、私はやっと――生まれ変われた気がした。 （つづく） 文字の制限があるため、続きは私のnoteをご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！