古びた教会の鐘楼には、ひび割れた鐘が吊り下げられていた。その教会は、かつては村のシンボルであり、多くの若者の幸せを祝福してきた場所であった。しかし、今は人影もまばらで、蔦が絡みつき、廃墟と化していた。 ある夏の夜、若き写真家、蒼葉は、その教会で撮影会を行うことになった。彼は、廃墟の持つ独特の雰囲気に惹かれ、古い教会で撮影をすることに強いこだわりを持っていた。 教会の中は、薄暗い光が差し込み、埃っぽい空気が漂っていた。蒼葉は、カメラを構え、シャッターを切る。すると、一枚の写真に、白いウェディングドレスを着た女性の姿が写り込んでいた。彼女は、顔はぼやけていてよくわからなかったが、手に白い花束を持ち、どこか寂しげな表情をしていた。 蒼葉は、その写真を見て背筋が寒くなった。彼は、この教会にまつわる噂を思い出した。昔、この教会で結婚式を挙げた花嫁が、新郎に逃げられ、絶望のあまり教会の鐘楼から身を投げたという。 蒼葉は、ますますこの教会に興味を持ち、夜な夜な教会を訪れるようになった。そして、彼は、白いウェディングドレスの女性を何度も見かけるようになった。彼女は、いつも同じ場所で、同じように白い花束を持って立っていた。 ある夜、蒼葉は、思い切って女性に声をかけた。「あなたは誰ですか？」と。すると、女性はゆっくりと蒼葉の方へ近づいてきた。蒼葉は、恐怖を感じながらも、女性を見つめ続けた。 女性は、蒼葉の目の前で、ゆっくりと形を変えていった。そして、蒼葉は、その女性が、かつてこの教会で結婚式を挙げた花嫁だと気づいた。花嫁は、蒼葉に、自分の悲劇を語り始めた。 花嫁は、新郎に裏切られ、絶望のあまり教会から飛び降りたが、まだこの世をさまよっていた。彼女は、永遠に愛する人と結ばれることを願っていた。 蒼葉は、花嫁の話を聞き、深く同情した。彼は、花嫁を救いたいと思った。そして、彼は、ある計画を立てた。 蒼葉は、教会の鐘楼に登り、古い鐘を鳴らした。鐘の音は、夜空に響き渡り、村中に広がっていった。そして、その鐘の音を聞いた村人たちが、教会に集まってきた。 村人たちは、蒼葉の話を聞き、花嫁の霊を弔うことにした。彼らは、教会で、花嫁のための祈りを捧げた。 祈りの声が響き渡る中、白いウェディングドレスの花嫁は、安らかな表情を浮かべ、蒼葉の腕の中に消えていった。 それからというもの、教会の鐘楼からは、美しい鐘の音が聞こえなくなった。しかし、蒼葉は、花嫁の霊が、永遠の安らぎを得たと信じていた。