私の名前はカナ。趣味は、チップチューンの音楽を作ること。小さなカセットテープや古いゲーム機から流れる、ピコピコとした電子音。みんなからは「古臭い」「ガラクタ」とか言われることもあるけど、私にとっては、これがたまらなくいいのです。 今日は、ちょっとした「音の冒険」に出かけることにしました。私が大好きなチップチューン音楽を、改めて自分の中で再発見したくなったから。背中に小さなリュックを背負い、青いジャケットを羽織り、暗いけれど温かみのあるライトに照らされた部屋を出ます。このジャケット、ちょっと派手かな？と思うこともあるけど、色合いが好きなのです。ジャケットの胸元にはピンクや青、緑の幾何学模様が描かれていて、まるでデジタル画面のように光の角度で輝きが変わります。だから、どこか昔のゲーム画面みたいに感じるのかもしれませんね。 部屋には、古い電子機器やゲーム機がずらりと並んでいて、どれも少し埃をかぶっているけれど、私の宝物です。今の時代の最新の機材にはない、ゴツゴツとしたレトロなデザインが魅力なんです。この部屋を一歩出るたび、なんとなくノスタルジックな気分になるのは、そういう雰囲気があるからでしょうか。部屋の隅にある昔のテレビ、スピーカーの隣に並べられたコンソール、壁に埋め込まれた配線。全部が古くて、懐かしくて、それでもどこか未来的に感じる。 さあ、音の旅が始まります。といっても、場所を変えるわけじゃないんです。今ここで使うのは、私の大好きなゲーム機「ファミコン」。手に持った小さなコントローラーを握りしめ、さっそくカートリッジをセットして電源を入れます。ピッ、ピッ、パーン！お馴染みのチープな電子音が、ヘッドホンから響いてくる。これがチップチューンの第一歩。 チップチューンって、なんだか知っていますか？もともとは、1980年代から90年代にかけて、ゲーム機の音楽として作られたものなんです。当時は音楽を作るためのデジタル技術が限られていたので、ピコピコした単純な音しか出せなかったんです。でも、制限があるからこそ、アイデアが無限に湧いてくる。3つか4つの音しか使えないのに、そこにメロディーやリズムを込めて、感情を伝えようとする。それが、今でもチップチューンが愛される理由なのです。音の制限があるからこそ、表現が研ぎ澄まされていくのかもしれません。 私が作り出す音楽も、そんな制限の中から生まれる小さな芸術作品です。時には、明るい未来を感じさせるメロディーを作ることもありますし、他の時には、ふとした寂しさを感じるノスタルジックなリズムに耳を傾けることもあります。チップチューンの音には、ただ楽しいだけじゃなくて、ちょっとした切なさや懐かしさが詰まっているのです。 電子音を一つ一つ確かめながら、音の世界に没入していると、まるで別の時代、別の空間に飛び込んでいるような感覚になります。カラフルな光が差し込む狭い部屋の中で、青いジャケットの袖をまくりながら、心の中では冒険が始まっているのです。目の前の機材の光が、まるで未来の都市を俯瞰しているように感じられ、私はその中で音の道を探して歩いているみたい。 たまに電源を入れ直すと、カセットが読み込めなかったり、音が途切れたりすることもあります。昔の機材って、こうやってすぐトラブルが起きるのがご愛嬌。けれど、その不完全さもまた味わいなんです。現代のスマートな音楽機材にはない、不器用な魅力が、私を引きつけて離しません。 私は、こんなふうに電子音の「旅」を続けながら、自分の心の奥にしまっているいろんな感情と向き合っています。楽しい音を見つけると、昔の友達とゲームをした懐かしい思い出がよみがえってきたり、少し寂しい音に耳を傾けると、過ぎ去った時間の儚さを感じたりするのです。こうやって過去と向き合うことで、今の自分が少しずつでも変わっていける気がします。 気がつくと、窓から入る夕方の光が部屋を染め始めていました。オレンジ色に照らされた古いスピーカーや、埃をかぶったコンソールが、まるで絵画の一部のように見えます。今日もまた、チップチューンの音の旅は続きました。音に触れるたび、私の心もまた別の場所へと連れ出される。 「また明日も、音の冒険に出かけようかな」