ふと鏡を覗き込んだら、なんだか今日はいい感じかもって思った。青いギンガムチェックのブラウスに、紺色のリボンが首元で軽やかに揺れる。太陽の光を浴びて、髪の毛の黒いツヤが少し茶色っぽく見えるのも悪くない。黄色のスカートもいいアクセントになってるし、少し風が吹くたびにふんわり広がるのが気に入ってる。これなら、きっと大丈夫だよね。 家を出てすぐ、秋の澄んだ空気に深呼吸をしてみる。青空が目にしみるくらい綺麗で、雲ひとつない空に、なんだか今日は世界が少しだけ優しい日なんじゃないかって気がしてくる。 私の名前は茉莉（まつり）。17歳の普通の高校生。自分のファッションセンスは、正直そんなに自信があるわけじゃないけど、服を選ぶときだけはちょっとだけ胸を張れる気がする。今日は友達の奈々と一緒に街へ出かける日。新しいカフェがオープンしたらしくて、彼女がどうしても行きたいって騒いでいた。 駅前で待ち合わせしていた奈々は、案の定、5分遅れで走ってきた。髪をひとつに結んでいる彼女は、いつも元気いっぱいで、今日も相変わらずの勢いだ。「ごめん！寝坊しちゃった！」と笑顔で手を振る彼女を見て、私は思わず吹き出してしまった。 「もう、また寝坊？ これで何回目？」 「今日は本当にギリギリだったんだって！」 そんなやり取りをしながら歩く街は、やっぱりどこか特別だ。店のショーウィンドウには秋物の服が並んでいて、どれも可愛いものばかり。ついつい足を止めて見入ってしまう。 カフェに着いたら、奈々がすぐに「これ食べたい！」とメニューを指さした。彼女はスイーツ好きで、特に新作には目がない。「じゃあ、私はこれにしようかな」と適当に合わせたけど、私の目が追っているのは、窓の外を歩く人たちの服装だ。色とりどりのコーディネートが私には小さな美術館みたいに見える。 その中で特に目を引いたのは、小さな女の子と手をつないで歩くお母さん。お母さんは赤いワンピースに白いカーディガンを羽織っていて、子どもは黄色いレインコート。あの組み合わせ、なんだか楽しそうで素敵だなって思った。 「茉莉、聞いてる？」 奈々が急に声をかけてきた。どうやら私が話を聞いていないことに気づいたらしい。 「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」 「また服のこと考えてたんでしょ？」 図星だったけど、私は何も言わず笑ってごまかした。 帰り道、夕焼けが街を柔らかいオレンジ色に染める中、私はふと立ち止まって奈々に言った。「ねえ、いつか私、自分で服を作りたいなって思うんだ。」その言葉に、奈々は一瞬驚いた顔をした後、ニッと笑った。「いいじゃん、それ。絶対似合ってるよ、茉莉に。」 その言葉が、私の胸の奥に暖かく染み込んだ。この日々の中に、小さな喜びがたくさん詰まっていることを、私は改めて感じる。 青空とリボンが揺れた今日。きっと、この気持ちはずっと忘れない。