春の風が頬をなでる。淡い桜色の光が、私の足元にちらちらと落ちていた。 私はタマ。二十歳になったばかりの大学生。最近、ふと思ったのだ。「もう少し、引き締まった体になりたい」と。冬の間にこっそり増えた体重が気になって、友達とランニングを始めたばかりだ。 だけど――誘惑はあまりにも多い。 例えば今、この瞬間。目の前には、大きなテーブルに並べられた色とりどりのケーキたちが、私をじっと見つめている。 ショートケーキのふんわりしたスポンジの間に、甘酸っぱいイチゴが顔をのぞかせている。ホイップクリームは雲のように軽やかで、フォークを入れた瞬間、シュワッと溶けてしまいそう。 ガトーショコラは艶やかに光り、表面には粉砂糖がふんわりと雪のように積もっている。一口かじれば、濃厚なカカオの香りが口いっぱいに広がるんだろうな……。 レモンタルトは、しっとりしたタルト生地の上に、鮮やかなレモンカードがたっぷりと乗せられ、その表面にキャラメリゼが施されている。ほろ苦さと甘酸っぱさが、完璧なバランスで共存しているに違いない。 ああ、もうダメ。見るだけで、頭がぼんやりしてくる。 「……一口くらい、いいんじゃない？」 不意に、耳元で囁く声がした。 振り向くと、そこには見知らぬ男がいた。赤いスーツに黒いシャツ。髪はゆるく巻かれ、瞳は琥珀色。笑顔はやたらと優雅で、どこか底知れぬ余裕を感じさせる。 「君、最近ダイエットしてるんでしょ？ でもさ、今日くらい、ご褒美でもいいんじゃない？」 彼はにこりと微笑みながら、テーブルの上のケーキを指さした。 その瞬間、反対側から澄んだ声が響いた。 「タマ！ 我慢よ！」 今度は白いドレスに身を包んだ少女が現れた。金色の巻き髪に、透き通るような青い瞳。ふわりとした羽が背中から生えている――って、えっ、羽！？ 「努力を無駄にしちゃダメ！ 目標を思い出して！」 え、え、え。どういうこと！？ だって、今のこの状況……。 目の前に、天使と悪魔がいるんですけど！？ 私はまばたきを繰り返しながら、目の前の二人を交互に見つめた。 悪魔っぽい男はにっこり微笑み、天使っぽい少女はまっすぐな眼差しで私を見つめている。 「ちょ、ちょっと待って、なんで私の前に天使と悪魔がいるの？」 思わず声を上げると、周りの友達が不思議そうに振り向いた。でも、どうやら彼らにはこの二人が見えていないらしい。 「んー？ なんでって……君の心の声があまりにも面白かったから、遊びに来ちゃったのさ」 悪魔の男が軽く肩をすくめる。 「私たちはあなたの心の中の葛藤を形にした存在よ」 天使の少女は真剣な表情で言った。「あなたが『食べるべきか、我慢すべきか』悩んでいたから、私たちが現れたの」 「えぇ……そんな漫画みたいな展開ある？」 頭を抱えたくなる。いや、これは夢だろうか？ それとも、私のダイエットへの執念が見せた幻覚？ 「ほら、そんなことよりケーキ、食べたいでしょ？」 悪魔が甘く囁く。 「だーめ！」 天使が慌てて彼の腕を叩いた。 「タマ、あなたは春が来るたびに『今年こそ痩せる！』って決意するけど、いつも途中で諦めてしまうでしょう？ 今年こそ変わるんじゃなかったの？」 「う……それは……」 確かに、私はいつも途中で挫折していた。最初はやる気満々で走り始めるけれど、途中で甘い誘惑に負けてしまう。今年こそは、と決意したのに。 でも、目の前のケーキはあまりにも美味しそうで―― 「まぁまぁ、一口くらいならいいじゃないか。せっかくの誕生日パーティーだよ？ たった一口で何が変わるっていうんだい？」 悪魔が誘惑する。 「ダメよ！ たった一口が、次の一口を呼ぶの！」 天使が必死に説得する。 私はケーキを見つめたまま、揺れる心をどうすればいいのか分からずにいた。 「ほら、決めなよ。食べるのか、それとも我慢するのか」 悪魔はいたずらっぽく笑いながら言う。 「あなたの選択が、あなた自身を作るのよ」 天使は優しく微笑んだ。 ――私は、どうするべきなんだろう？ （つづく） 全部を載せたいのですが文字数の制限があるため、続きが気になる方は私のブログ「MochiMermaid’s AI Art Adventures」をご覧ください。