私の名前はタマ。28歳、都内のIT企業で働くごく普通のOLです。 外は桜が満開。窓から漂う春の香りに誘われて、今年こそはダイエットを決意しました。去年の健康診断で、BMIが標準値をちょっと超えていたんです。 実は高校生の頃まで陸上部で、県大会で入賞するくらいの選手だったんです。でも大学に入ってからは運動から遠ざかり、気づけば体重計に乗るのが怖くなっていました。 「タマ、明日から一緒にランニング始めない？」 ある日、LINEで親友の美咲からそんなメッセージが届きました。美咲とは大学の同級生で、私と同じようにIT業界で働いています。 「これは運命かも」 その言葉に背中を押され、週3回、仕事帰りに皇居ランを始めることにしました。最初は1周もきつかったけど、少しずつ体が慣れてきて、2周も走れるようになってきました。 食事も見直して、コンビニ弁当からお手製サラダに切り替え。スイーツは週末だけと決めて、順調に3キロ減。 そんなある日、クローゼットの奥から高校時代の制服が出てきました。懐かしさに試着してみると...ちょっとキツい。でも「これが入るようになったら、きっと素敵」 その矢先、美咲から誕生日パーティーの招待状が届いたんです。 会場に着くなり、目に飛び込んできたのは、まるで宝石のように輝くケーキの数々。特に中央に鎮座する3段のショートケーキは、真っ白な生クリームの間から苺が顔を覗かせ、上品な艶を放つチョコレートのプレートが添えられていました。 「タマ、ここまで頑張ってきたじゃない。目標まであと一歩よ」 突然、右肩に小さな光が現れ、白い羽を持つ天使が私に語りかけてきました。 「でもねぇ、誕生日は特別な日。たまには良いでしょ？」 左肩には赤いマントを羽織った小悪魔が、意地の悪い笑みを浮かべています。 私は思わず目を擦りました。疲れているのかな？でも、確かにそこにいる。天使と悪魔。しかも、私にしか見えないみたい。 「このケーキ、去年オープンした『パティスリー・エトワール』の特注品なのよ」 美咲が誇らしげに説明します。エトワールと言えば、SNSで話題沸騰中の超人気店。予約が取れない、行列が絶えないと評判の名店です。 生クリームの間から覗く苺は、宝石のように輝く深紅色。ケーキの周りを彩るフルーツは、まるで芸術作品のように配置されています。 「タマ、この3ヶ月の努力を思い出して。朝5時に起きてのランニング、お弁当作り、全部無駄になっちゃうわよ」 天使が真剣な表情で訴えかけます。確かにその通り。でも... 「人生楽しまなきゃ損よ損！特別な日のケーキは0カロリー！それに、こんな素敵なケーキを前にして我慢なんて、むしろストレスでしょ？」 悪魔の言葉が耳元で響きます。 私の脳裏に、高校時代の記憶が蘇ります。陸上部の仲間と、試合後に食べたケーキの味。あの時は、こんなに悩まなくても良かったのに。 「タマ、そのドレス素敵ね」 パーティーに参加していた後輩の里美が声をかけてきました。実は、このドレスも昔のサイズ。やっと着られるようになったんです。 その瞬間、私の目に映ったのは、ケーキを楽しそうに食べる友人たちの笑顔。そして、鏡に映る自分の姿。 「そういえば...」 私は高校時代の県大会前夜のことを思い出しました。顧問の山田先生が、意外なことを言ったんです。 「明日の試合前だけど、好きなものを食べなさい。でも、『なぜ食べるのか』をちゃんと考えてからね」 当時の私には、その意味がよく分かりませんでした。ただ、試合の前日だから我慢しなきゃ、そう思っていたから。 「ほら、見て見て！このショコラの層、完璧な艶でしょう？パティシエが丹精込めて作った芸術作品よ」 悪魔が私の視線の先を指差します。確かに、チョコレートの層は鏡のように美しく、その下のスポンジは驚くほどしっとりとしています。 「でも、明日の朝のランニングどうするの？重い体で走れるの？」 天使が心配そうな表情で問いかけます。 そのとき、スマートフォンが振動。ランニング仲間のグループLINEでした。 「明日も6時に皇居で待ち合わせね！桜が満開だから、写真撮影タイムも作りましょう♪」 美咲が送ってくれたメッセージに、みんなが賛同のスタンプを押しています。 その瞬間、私の中で何かが明確になりました。山田先生の言葉の意味が、今になってやっと分かったような気がします。 「なぜ食べるのか」「なぜ我慢するのか」。その理由は、誰かに言われたからでも、ダイエットだからでもない。 （つづく） 全部を載せたいのですが文字数の制限があるため、もし続きが気になる方は私のnoteをご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！