私の名前は宝石愛。中学2年生で、クラスでは影が薄い方の女の子。休み時間は一人でアクセサリー作りに没頭していることが多いわ。 ただ、宝石のことだけは誰にも負けない自信があるの。宝石デザイナーの母の影響で幼い頃から様々な宝石に触れてきて、その美しさや特徴を学んできたから。 その日も、いつものように放課後の教室で自作のペンダントを磨いていた。夕陽が差し込む窓辺で、薄紫色の天然アメジストを銀の枠に収めた作品。 「このアメジストは、2月の誕生石で、心を落ち着かせる効果があるって言われているの」と、独り言を呟きながら磨いていると、突然ペンダントから紫色の光が溢れ出した。 私は驚いて目を見開いた。光は渦を巻くように空中で舞い、次第に小さな人型の姿を形作っていく。そこに現れたのは、全長15センチほどの、アメジストと同じ紫色の髪とドレスを纏った小さな妖精。 「はじめまして、愛。私はアメジストのジュエル、アメちゃんよ」 澄んだ声で話しかけてきた妖精は、キラキラと輝く羽を持ち、宝石のような瞳で私を見つめていた。まるで夢を見ているような出来事に、私は言葉を失った。 「驚かせてごめんなさい。でも、あなたの助けが必要なの」アメちゃんは真剣な表情で続けた。「今、とても危険な存在が人々の心を狙っているの。シャドウという存在よ」 「シャドウ...？」私は困惑しながら尋ねた。教室の空気が少し重くなったような気がする。 「そう。人々の心の闇から生まれる存在なの。悩みや不安、寂しさといった負の感情を増幅させ、最後には心を完全に閉ざしてしまうの」アメちゃんは小さな手を胸に当てながら説明してくれた。 「でも、あなたなら出来る。その純粋な心と、宝石への深い愛情が、シャドウと戦う力になるはず」 その時、廊下から誰かの泣き声が聞こえてきた。私とアメちゃんが顔を見合わせる。 「あの声...美咲さん？」私は立ち上がった。美咲さんは同じクラスの女の子で、いつも明るく元気な子。でも最近、何か悩みを抱えているような様子だった。 「シャドウの気配を感じる！」アメちゃんが叫ぶ。「急いで！このペンダントを使って！」 私は首から下げていたアメジストのペンダントを手に取る。不思議と、温かい光が手のひらに伝わってくる。 「心の中で唱えて。『ジュエルブレイズ、シャイニングオン！』」 私は深く息を吸い込んだ。今までの内気な自分を変えられるかもしれない。そう思うと、不思議と勇気が湧いてきた。 「ジュエルブレイズ、シャイニングオン！」 言葉を発した瞬間、アメジストの光が私を包み込む。温かく、優しい光。まるで母に抱きしめられているような感覚。 光が消えると、私の服装が変わっていた。淡い紫色のドレスに、キラキラと輝く宝石のような装飾。手には、アメジストを埋め込んだステッキが。 「これが...私？」自分の姿に驚く。今までにない、不思議な力が体に宿っているのを感じた。 「急いで！美咲さんの所へ！」アメちゃんの声に促され、私は廊下へ飛び出した。 夕暮れの廊下を走る。窓の外では街灯が次々と灯り始めている。そこで、私は立ち止まった。 美術室の前で膝を抱えて座り込む美咲さんの周りを、黒い霧のような物が渦巻いていた。それは次第に形を成し、不気味な人型の影となっていく。 「あれが...シャドウ？」私の声が震える。 「大丈夫。あなたには宝石の力がある。そして何より、大切な心がある」アメちゃんが私の肩に手を置いた。 シャドウは不気味な声で語り始めた。「もう誰にも私の絵を理解してもらえない...。そんな美咲の心の闇が、私を呼び寄せたのよ」 「絵？」私は美咲さんを見つめる。そう言えば、美咲さんは美術部のエースで、来月の市の展覧会に出品が決まっていたはず。 「周りの期待が重すぎて...私には無理...もう描けない...」美咲さんの呟きが聞こえてきた。その言葉に共感する。私だって、自分の作るアクセサリーに自信が持てずにいたから。 「愛！アメジストの力を使って！」アメちゃんの声が響く。「アメジストには心を癒す力があるの。相手の心に寄り添って！」 ( 2 につづく)