声は震えていた。私、夢咲あかりの声が。中学2年生にして、すでに将来への不安を抱えている自分が情けなかった。 演劇部の部室で、また一人で台本を読み込んでいる。窓から差し込む夕陽が、無機質な机の上で踊っている。「もっと...もっと上手くならないと」 先週のオーディションでの失敗が、まだ心の中でリプレイされ続けていた。声が裏返り、キャラクターになりきれず、審査員の目が冷たかった。 「声優になりたい」その夢を持ち始めたのは、小学4年生の時。アニメ「マジカルプリンセス☆ルミナ」の主人公の声を担当していた月島涼子さんの演技に心を奪われた瞬間からだった。 でも、今の私には才能があるのだろうか。身長155cm、黒髪のツインテール、普通の女子中学生。声優になれるような特別な何かなんて、持ち合わせていない。 「あかりちゃん、まだいたの？」部室のドアが開き、顧問の佐々木先生が顔を覗かせた。優しい目をした30代の女性教師だ。演劇部の指導の傍ら、地域の劇団でも活動している。 「はい...もう少し練習していきます」私は台本を握りしめた。佐々木先生は、少し考えるような表情をして、部室に入ってきた。 「ねぇ、あかりちゃん。来週末、渋谷でボイスアクティング講座があるんだけど、興味ない？」先生の言葉に、私の心臓が大きく跳ねた。 その瞬間、私は知らなかった。この講座が、私の人生を大きく変えることになるなんて。月島涼子さんが特別講師として来るということも。 「行きます！」即答した私の声は、久しぶりに力強かった。部室の窓から差し込む夕陽が、まるで私の決意を祝福するかのように、より一層明るく輝いていた。 渋谷に向かう電車の中で、私は何度も講座の案内を確認していた。「プロの声優から学ぶ！一日特別レッスン」そのチラシには、月島涼子さんの写真が載っていた。 会場に着くと、すでに多くの参加者が集まっていた。同年代の子もいれば、大人もいる。みんな同じ夢を持っているのかな。 「はい、では組み分けを発表します」スタッフの声が響く。私は12番。「12番から15番の方は、B教室へどうぞ」 B教室に入ると、同じ班になった3人と目が合った。特に印象的だったのは、凛として美しい女の子。後で分かったことだけど、彼女の名前は水澤みどり。声優養成所に通う高校1年生だった。 「じゃあ、自己紹介から始めましょうか」講師の声が、教室に響く。その声に聞き覚えがあることに気づくまで、数秒かかった。 振り返ると、そこには月島涼子さんが立っていた。テレビで見るよりも背が高く、凛とした佇まいに圧倒される。私の心臓は大きく跳ねた。 「では、この台本で演技指導をしていきましょう」配られた台本には、見覚えのあるアニメのシーンが印刷されていた。「マジカルプリンセス☆ルミナ」の名シーン。私の原点とも言えるシーンだ。 「まずは水澤さん、お願いできますか？」みどりさんが立ち上がる。彼女の背筋はピンと伸びていて、まるでプロのよう。 そして、彼女の声が響いた。「大丈夫、私は諦めない。だって、みんなの想いを背負っているから」完璧な演技に、教室が静まり返る。 「素晴らしいわ」月島さんが微笑む。「では次は...夢咲さん、お願いできますか？」私の名前が呼ばれ、足が震えた。 立ち上がる時、みどりさんと目が合った。彼女の瞳に、ライバルとしての闘志が宿っているのが分かった。この日を境に、私たちは互いを高め合う存在となっていく。 私の声は震えていた。でも、今度は緊張からじゃない。憧れのシーンを演じる高揚感に体が震えていた。 「私...私は信じている。この魔法の力を。そして、何より」一呼吸おいて、心の底から感情を込める。「大切な仲間たちを！」 月島さんの目が、わずかに見開かれた。その反応に、私の心臓が高鳴る。 「夢咲さん、その感情の出し方、とても良いわ」月島さんが近づいてきた。「でも、もっと自分を解放してみて」 「解放...ですか？」私が首を傾げると、月島さんは優しく微笑んだ。 「そう。今のあなたは、自分の殻に閉じこもっている。声優は、時にはみっともなくなることも恐れちゃいけないの」 その言葉が、私の心に突き刺さった。確かに、いつも周りの目を気にして、自分を抑えていた。 「もう一度やってみましょう。今度は、教室なんてないと思って。ここにいるのは、あなたとキャラクターだけ」 （つづく） 文字数に制限があるため、続きが気になる方は私のブログ「MochiMermaid’s AI Art Adventures」をご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！