息を呑むほどに静謐な空間。 古い石造りの建物に足を踏み入れた瞬間、外界の喧騒が嘘のように遠ざかる。 ここは国立の西洋美術館。 私が働く、大切な場所です。 私は佐々木蘭。 美術修復士として、日々、古（いにしえ）の絵画と向き合っています。 絵筆を持つ手は、繊細な修復作業で酷使され、少しばかり腱鞘炎気味ですけれど。 絵画への愛情は、誰にも負けないと自負しています。 幼い頃から絵を描くことが好きで、絵画の世界に魅せられてきました。 しかし、画家になる道を選んだ姉とは異なり、私は絵画を「守る」道を選んだのです。 その理由は、姉とのある出来事が深く関係しています。 それは、今でも私の心に影を落としている過去の傷跡です。 今日の修復対象は、17世紀フランドル派の巨匠、ピーテル・パウル・ルーベンスの作品。 「聖母被昇天」という大作です。 その荘厳な輝きは、時を超えて今も人々を魅了し続けています。 天井の高い展示室に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を撫でました。 磨き上げられた大理石の床は、まるで鏡のように周囲の風景を映し出しています。 天窓から差し込む自然光が、絵画を優しく照らし出していました。 ルーベンス特有の、力強く、躍動感に満ちた筆致。 そして、鮮やかな色彩。 私はルーペを手に取り、絵肌を注意深く観察し始めました。 ‍細かなひび割れ、過去の修復跡、絵具の剥落。 長年の歳月が刻んだ痕跡を、丁寧に記録していきます。 この作業は、絵画の声に耳を傾ける行為。 過去と対話する、神聖な時間です。 ふと、背後で微かな物音がしました。 振り返ると、見慣れない男性が立っていました。 黒いスーツを着た、どこか神経質そうな印象の男。 彼は美術館の関係者ではなく、明らかに一般の観覧者のようでした。 その男は、私に気づくと、そそくさと別の方向へ歩いて行きました。 何気ない仕草でしたが、なぜか私の胸に小さな引っかかりを残しました。 その日の夕方、美術館が閉館し、人々が家路につく頃。 私は修復室で、ルーベンスの絵画の修復計画を立てていました。 外はすっかり暗くなり、美術館全体が静寂に包まれています。 その静けさは、まるで時間が止まってしまったかのようです。 その時、けたたましいアラーム音が美術館全体に鳴り響きました。 赤いランプが点滅し、非常灯が廊下を照らし出します。 私は心臓を高鳴らせながら、ルーベンスの絵画が展示されている部屋へ急ぎました。 息を切らせて部屋に飛び込むと、そこには信じられない光景が広がっていました。 ルーベンスの「聖母被昇天」があったはずの場所に、絵画がないのです。 ️ 空っぽになった額縁だけが、虚しく壁に残されていました。 「まさか…盗まれた…？」 私は愕然としました。 しかし、それ以上に不可解なのは、部屋が完全に密室状態だったことです。 窓は全て内側から施錠され、ドアも閉まっていました。 警備システムは作動しており、侵入者の痕跡は見当たりません。 一体、どのようにして絵画が盗まれたのでしょうか？ 私はすぐに美術館の警備責任者に連絡しました。 数分後、警備員たちが駆けつけ、現場検証が始まりました。 私は修復士として、絵画の状態を確認するために現場に立ち会いました。 警察の捜査官も到着し、物々しい雰囲気に包まれます。 私は、盗まれた絵画があった場所を改めて確認しました。 額縁に残されたわずかな埃の跡。 床に落ちていた、微細な繊維。 私はルーペを取り出し、それらを丁寧に観察しました。 その時、私はあることに気づきました。 額縁の裏側に、かすかな傷跡があるのです。 それは、まるで何かでこじ開けられたような跡でした。 しかし、額縁はしっかりと壁に固定されており、外側からこじ開けることは不可能です。 一体、どういうことでしょうか？ 私はこのことを警察の捜査官に伝えました。 捜査官は額縁の裏側を確認し、眉をひそめました。 「これは…内側からこじ開けた跡のようですね。」 「しかし、部屋は密室状態です。一体、どのように…？」 捜査官も首を傾げています。 私は、この密室トリックに強い興味を抱きました。 修復士として、絵画だけでなく、その背後にある歴史や物語にも深い関心を持っています。 今回の事件は、単なる盗難事件ではなく、巧妙なトリックが仕組まれた、知的な挑戦状のように思えました。 （つづく） 全部を載せたいのですが制限があるため、もし続きが気になる方は私のブログ「MochiMermaid’s AI Art Adventures」をご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！