息を呑むほどの光が、私の身体を照らしている。 スポットライトの下、ピンク色のチュチュが光を反射し、まるで宝石のようにきらめく。 肩には繊細なレースが施され、髪にはキラキラと輝くティアラ。 紫色の髪は、控えめなカールがふんわり揺れて、ライトを受けて柔らかな光を帯びている。 私は笑みを浮かべて片目をウィンクする。 けれど、その微笑みの裏側では、心臓が早鐘のように鳴っているのだ。 観客席のざわめきが耳に届き、舞台袖にいる仲間たちの視線が背中に刺さる。 「ここが私の居場所だ」 そう思いながらも、喉の奥に緊張が絡みつき、息をするのさえ忘れそうになる。 私が初めてバレエを習い始めたのは、小学校三年生のときだった。 きっかけは、母が録画してくれた世界的バレエ公演の映像。 その中で軽やかに舞うバレリーナたちを見て、「私もあんなふうになりたい」と心の底から憧れた。 しかし、実際の練習は厳しかった。 踊ることの楽しさ以上に、身体の痛みや、先生の厳しい声に耐えきれなくなり、何度もやめたいと思った。 それでも続けられたのは、あの映像の中の輝きが、いつも私の背中を押してくれたからだ。 今日のこの舞台は、そんな私が夢見続けた場所だ。 けれど、ここに至るまでには多くの試練があった。 中学二年生のとき、私は一度バレエを諦めかけた。 同世代のライバルたちはどんどん上達していくのに、私は思うように成績が伸びず、コンクールではいつも最下位。 練習中に足をくじき、心も身体もボロボロだった私に、先生はこう言った。 「踊る理由がなければ、舞台に立つ資格はない」 その言葉が私の心を突き刺した。 私は泣きながら一晩中考えた。 「私にとって踊る理由って何だろう？」 そして気づいた。 私はただ、自由になりたかったのだ。 ステージの上では、誰にも縛られない自分でいられる。 それが、私が踊り続ける理由だった。 そんな想いを胸に迎えた今日の舞台。 ステージの中央に立つと、照明の光がさらに強まり、観客席の姿はぼんやりと霞んで見える。 けれど、あのざわめきや視線の熱量は、確かに私に届いている。 音楽が鳴り始める。 一音目が響いた瞬間、身体が自然と動き出す。 腕を広げ、つま先で舞い上がり、ピルエットを決めるたびに、観客席から微かな感嘆の声が漏れるのがわかる。 ライトの熱が肌にじんわりと伝わる。 汗が額を伝い、肩甲骨のあたりに冷たい空気が触れる感覚。 動きの一つひとつが、まるで光と一緒に踊っているように感じられる。 最後のスピンに入る瞬間、会場全体の緊張がピークに達した。 観客が息を呑む音が聞こえた気がした。 私は思い切り回転し、フィニッシュポーズを決める。 そして、数秒の静寂の後——ホール全体が割れるような拍手に包まれた。 熱い涙が頬を伝う。 こんなにも多くの人に、私の踊りが届いたのだと思うと、胸がいっぱいになる。 舞台袖に戻ると、仲間たちが駆け寄ってきて、次々に声をかけてくれる。 「最高だったよ、紗月！」 そう、私の名前は紗月。 “月の光”という意味を持つ名前が、今の私にふさわしいように思えた。 ふと、観客席の一角に目を向けると、憧れのバレリーナが立ち上がり、私に向けて大きな拍手を送っているのが見えた。 その姿に、また新たな夢が生まれる。 「もっと上を目指したい」 この舞台に立つたびに、夢は広がり続ける。 ピンクのチュチュとティアラに包まれた私は、未来への第一歩を踏み出していた。