[ (2) のつづき ] 男は、死んでいなかった。 荒い息をしながら、床に倒れ込んでいた。まるで時間が止まったみたいに、店の中は静かだった⏳🔇 「お、お客さん？」 お母さんの声が震えている。そりゃそうだ。突然、ずぶ濡れの男が入ってきて、いきなりぶっ倒れたんだから。 私はそっと近づいて、男の顔を覗き込んだ。 ——若かった。 でも、ただの若者じゃない。 頬にはかすれた傷。 髪はくしゃくしゃで、ところどころ泥がついている。 黒いコートの下から覗くシャツには、赤黒い染みが広がっていた🩸 私は息をのんだ。 「ケガしてる……！」 その声に反応したのか、男がかすかに目を開けた。 「……ここ、は……？」 声は、ひどく掠れていた。まるで、何かから逃げてきたみたいに。 男はゆっくりと顔を上げて、私を見た。その瞬間、背中がゾクリとした。 目の奥が、深い。 深すぎて、のぞき込んだら落ちてしまいそうな——そんな目。 でも、その目は一瞬だけ私を見て、すぐに閉じられた。 ——そして、意識を失った。 🔔🔔🔔 「救急車、呼ぶべきじゃない？」 お母さんが動揺している。でも、私はなんだか、分かってしまった。この人は病院に行ったらダメな気がする。 「お母さん、裏の部屋、貸せる？」 「え？」 「この人、ここで休ませよう」 「ちょっと待って、ユイ……」 お母さんは困惑していた。無理もない。でも、私はもう決めていた。 だって—— この人の未来を、私はもう見てしまったのだから。 もし、このまま放っておいたら——この人は、本当に死ぬ。 未来は変えられるかもしれない。 でも、それを「本当に変えられるか」は、私次第だった。 私は砂時計を握りしめながら、小さく息を吸った。 「この人を、助けなきゃ。」 ——カラカラカラ。 砂時計が、またひとつ、時を刻んだ⏳✨ ＊ 男が目を覚ましたのは、深夜だった。 古本屋の奥の部屋。 小さな電気スタンドの光が、ぼんやりと部屋を照らしている🛋️💡 私はその光の中で、じっと男の顔を見つめていた。 彼の呼吸は落ち着いていて、さっきより顔色も良くなっていた。 傷はひどいけど、応急処置をしたおかげで血は止まっている。 ——助けることは、できた。 でも、それでよかったのかは分からない。 この人の「未来」は、まだ見ていない。 目を開けるのを、私はずっと待っていた。 なぜか分からない。 ただ——この人が何者なのか、聞かなきゃいけない気がした。 そして、その時。 男が、小さく唸った。 「……ん……」 私は息をのんだ。 「目、覚めた？」 「……ここは……」 かすれた声。 でも、その目ははっきりと私を捉えていた。 「古本屋の奥の部屋」 「……古本屋？」 男は天井をぼんやりと見つめたあと、ゆっくりと起き上がろうとした。 でも、体が痛むのか、顔をしかめる。 「無理しない方がいいよ。傷、ひどかったんだから」 「……あんたが……手当てを？」 「うん。お母さんも手伝ってくれたけどね」 男はしばらく私をじっと見たあと、小さく笑った。 「変わったガキだな」 「ガキじゃない。月野ユイ」 私は腕を組んで睨んだ。 男はまた小さく笑って、それから視線を落とした。 「……助けられるなんて、思わなかった」 その声には、どこか妙な響きがあった。 安堵と、ほんの少しの驚き。 まるで「自分が助かるはずがない」と思っていたみたいに。 私は、やっぱり気になった。 「ねえ、あなた誰？ なんでケガしてたの？」 すると、男の目が鋭くなった。 それまでのぼんやりした雰囲気が、一瞬で消える。 「——俺のことは、忘れた方がいい」 低い声。 それは「警告」だった。 でも——私は、引き下がるつもりはなかった。 だって、この人は「私の未来」に関係している。 今、ここで出会ったことには、意味がある。 私はじっと、男を見た。 「それは無理。あなたの未来を見たから」 男の表情が、変わった。 「……何？」 「私は、未来が見えるんだよ」 そう言って、私は砂時計を見せた⏳✨ 男は、その砂時計を見つめると——ほんの一瞬、目を見開いた。 それは驚きだった。 「……お前……」 [ 続きは私のnoteをご覧ください ]