眩い青空が広がる中、私は天翔ける翼を広げた。柔らかな風が私の頬を撫で、金色の甲冑が陽光を浴びて輝く。透けるスカートの裾が風に揺れ、純白の羽根が舞い落ちていく。その度に、まるで世界そのものに祝福されているかのような感覚が胸を満たす。私の名前はエレナ。天界で「光の守護者」と呼ばれる戦士だ。 けれど、本当の私はそんな大それたものじゃない。ただ与えられた使命に従い、毎日戦い続ける少女に過ぎない。私の腰には黄金の剣が下がっている。その刃先には、これまで討ち果たしてきた堕天者たちの痕跡がかすかに残っている。 堕天者──かつては天界の仲間だった者たち。しかし、闇に囚われた彼らは光を拒み、世界を混沌に導こうとする存在と化した。その中心にいるのがリュシエル、かつて私の憧れだった人。そして今は、私が倒さなければならない最大の敵。 「どうして、あの人が…」 何度も問いかけても答えは返ってこない。空に浮かぶ聖なる光輪が私の胸を締めつける。そこは天界の神殿、すべての命が始まり、そして還る場所だ。リュシエルはその地を離れ、闇の深淵へと堕ちてしまった。 私は剣を握り直し、翼を大きく広げた。青空を駆け抜けるたびに、陽光が甲冑に反射してきらめく。周囲の天使たちの視線を感じたが、誰も声をかけてこない。これは私一人の戦いなのだ。 --- 闇の渦が広がる場所へたどり着いたとき、空の青さはすっかり消え失せ、冷たい黒の気配が全てを覆い尽くしていた。光を吸い込むような闇の中に、彼の姿があった。 「来たか、エレナ」 低く響く声が闇の中に木霊する。リュシエルは漆黒の鎧を纏い、背には闇を象徴するような黒い翼が広がっていた。その瞳にはかつての優しさは微塵もなく、深い悲しみと怒りだけが宿っている。 「リュシエル、どうして……」 問いかける声が震えた。返答を待つ間、彼の背後に舞う羽根の動きに見惚れる自分がいた。その一つ一つが黒い炎に包まれて燃え尽きていく。その光景は恐ろしいはずなのに、どこか美しかった。 「お前にはわからないさ。この世界の真実が」 そう呟くと彼は剣を構えた。その刃先は深い漆黒に染まり、近づくものすべてを無に還すかのような圧力を放っている。 --- 私たちの剣が交わった瞬間、世界が一瞬止まったような錯覚に陥った。音も風も消え、ただ光と闇の交差が、時を支配した。 「エレナ、お前はまだ気づいていない。この世界は光だけでは成り立たないのだ」 リュシエルの剣さばきは鋭く、私は防御するのが精一杯だった。しかしその言葉の意味が気になり、どうしても攻撃の手を強めることができない。 「それでも、私は……光を信じる！」 叫びながら一撃を放つと、彼の黒い鎧にヒビが走った。その瞬間、彼はわずかに笑みを浮かべた。 --- 闘いはやがて終局を迎えた。リュシエルは自らの刃を下ろし、私の目の前に膝をついた。 「エレナ、お前の無垢な光が俺を救ったのだろう。だが、俺はここで終わらなければならない」 「どういうこと！？まだ救えるはず……！」 彼は首を振り、漆黒の翼を広げながら自らの命を燃やし始めた。その燃え盛る闇は一瞬で光へと変わり、あたりを包み込んだ。 「お前なら、この世界を照らすことができる……それを忘れるな」 その言葉とともに、彼は光と共に消えていった。 --- 闇が晴れ、青空が戻ると、私は剣を握り締めたまま空を仰いだ。純白の翼が再び陽光を浴びて輝き、涙が一粒、頬を伝う。 「必ず、この光を守ってみせる……！」 リュシエルの遺した思いを胸に、私は再び翼を広げた。青空の向こうに待つ未来を信じて。 ―――――――― この投稿、気に入っていただけたら嬉しいです！ハートマークタップで応援してね！