私の名前は佐藤あかり。高校二年生です。人見知りで、本を読むことが大好きな女子高生。いつもピンクのパーカーを着て、フードを深く被っているので、「ピンクずきん」なんて呼ばれることもあります。 私の住む街は、都会から少し離れた静かな郊外。古い街並みと新しい建物が不思議と調和している、どこか懐かしい雰囲気の街です。 特に私のお気に入りは、駅前の市立図書館。築50年を超える重厚な建物で、大きな窓からは夕暮れの光が美しく差し込みます。木の温もりを感じる古い机と椅子、本の匂い、時折聞こえる古時計の音。それらが織りなす空間が、私にとっての特別な場所なんです。 でも、この図書館での日常が、あの不思議なピンクの鳥との出会いから、少しずつ変わり始めることになるなんて、その時は想像もしていませんでした。 私には秘密があります。小さい頃から、時々見る夢。そこには必ず、ピンクの鳥が現れます。でも、誰にも話したことはありません。きっと変な子だと思われるから。 その日も私は、いつものように放課後の図書館で読書をしていました。今日は『迷い込んだ魔法使い』という小説。異世界ファンタジーって、現実から少し距離を置ける感じが好きなんです。 ページをめくる手が止まります。なんだか、誰かに見られている気がして...。そっと顔を上げると、向かいの席に座っている大学生らしき人と目が合いました。 黒縁の眼鏡をかけた優しそうな顔立ち。手元には分厚い専門書が広げられています。気まずくなって慌てて本に視線を戻すと、消しゴムを落としてしまいました。 「あ、これ」という声に顔を上げると、彼が拾ってくれた消しゴムを差し出していました。その瞬間、窓の外を何か大きなものが横切ったような...。でも、振り返った時には何もありませんでした。 図書館の古時計が、いつもより大きな音を立てて5時を告げます。まるで、私たちの出会いを祝福するかのように。 そう、これが翔太さんとの出会いでした。でも、この出会いは本当に偶然だったのでしょうか。それとも...。 あの日以来、図書館で過ごす時間が、少しずつ特別なものに変わっていきました。そして、私の中の何かが、静かに、でも確実に動き始めていたんです。 母が残してくれた日記帳のことも、図書館の古い資料室に眠る一枚の写真のことも、その時はまだ知りませんでした。すべては、あのピンクの鳥を追いかけることから始まるのです。 翌日、私は少し早めに図書館へ向かいました。昨日と同じ席に座り、カバンから本を取り出す手が少し震えています。 「やっぱり来てくれたんですね」突然聞こえた声に、びくりと肩が震えました。翔太さんが、昨日と同じ優しい笑顔で立っていました。 「は、はい...」思わず声が小さくなってしまいます。でも不思議と、緊張は徐々にほぐれていきました。 その日から、私たちは毎日のように図書館で会うようになりました。翔太さんは文学部で日本の古典文学を研究しているそうです。特に、この地域に伝わる民話に興味があるとか。 「佐藤さんは、この街の伝説知ってますか？」ある日、翔太さんがふと尋ねてきました。 「伝説...ですか？」首を傾げる私に、翔太さんは面白そうに続けます。「そう、50年前にこの図書館で起きた不思議な出来事について」 その時です。図書館の古時計が再び大きな音を立て、私たちを驚かせました。そして、窓の外を大きなピンクの影が横切ったのです。 「今の...！」私と翔太さんは同時に声を上げ、顔を見合わせました。確かに、私だけじゃない。翔太さんも見たんです。 「追いかけてみませんか？」翔太さんの目が輝いています。私は少し躊躇しましたが、小さく頷きました。 私たちは急いで図書館を出ました。夕暮れの街並みに、オレンジ色の光が溶け込んでいきます。 「あ！」通りの角を曲がったところで、私は思わず立ち止まりました。路地の奥に、見覚えのある後ろ姿が...。 「どうしました？」翔太さんが心配そうに私を見ます。でも、その時には既にその影は消えていました。母の面影だったのでしょうか。 その夜、久しぶりに実家の押し入れを開けました。幼い頃によく見ていた母の古い日記帳を探したくなったんです。すると...。 「これは...」埃をかぶった箱の中から、一枚の古い写真が出てきました。そこには若かりし日の母と、背後に写り込んだピンクの大きな影が...。 （つづく） 全部を載せたいのですが制限があるため、もし続きが気になる方は私のnoteをご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！