朝の光がカーテン越しにやさしく差し込んでくる。私の部屋はいつも朝が似合う。カーテンの淡いグリーンと、壁の柔らかな白のコントラストが、自然光でぼんやりと輝いている。ベッドの上に寝そべったまま、私はその光をじっと見つめていた。 「さゆり、まだ起きないの？」 隣から声がして、私の視線が動く。彼――翔太が、笑いをこらえたような顔でこちらを見ている。私の部屋に朝から男の子がいるなんて、ちょっと変な感じだ。でも、翔太とは幼なじみだから、こうして家にいるのも日常の一部だと思えば、そんなにおかしなことじゃない。 「まだ寝てたいんだよ、いいでしょ？」 わざと拗ねたように返すと、彼は微笑んで頭をかいた。翔太のこんな表情を見ると、なんだか私も安心してしまう。私の冗談を受け入れてくれる彼の優しさが、いつも心に染みるんだ。 「昨日遅くまで起きてたんだろ？顔に出てるよ」 そう言って、翔太は私の頬を指で軽くつつく。反射的に手で追い払うけど、内心、少し照れていた。翔太に触れられるのは、まだ慣れない。それでも、彼の指の温かさが残る。 彼はベッドの端に座り、私の方に顔を向けている。いつも見慣れているその顔を、今朝はやけに近く感じる。私が少し顔を赤らめると、翔太も恥ずかしそうに視線をそらした。あの、無邪気な茶色の瞳に見つめられると、いつも胸が少しだけきゅんとする。これって、どういう気持ちなんだろう。 「それにしても、さゆりの部屋って落ち着くよな。光がやわらかくて、なんていうか……あったかい感じ」 翔太がふいにそんなことを言うものだから、私はドキッとする。彼が私の部屋をそんな風に感じてくれてるなんて、意外だった。私にとっての居心地の良い空間が、彼にとっても特別な場所になっているのかもしれないと思うと、少し嬉しくなる。 「そう？そんなに普通の部屋だと思うけどな」 照れ隠しで軽く流す私に、翔太は「そうでもないよ」と首を振る。そして、手を伸ばしてカーテンを少し引き、外の光をもっと取り込んだ。まるで、私の部屋をさらに明るくしようとしているみたいだった。 「やっぱり、さゆりの部屋は良いよな。なんか、こうやって一緒にいると落ち着くっていうか」 彼が少し遠くを見つめながら、ポツリとそう言う。その言葉に胸が温かくなった。翔太は、いつもふざけたり茶化したりするくせに、たまに真面目なことをさらっと言う。そんなところがズルいんだよ。 私たちはそのまま、二人とも言葉を失ったかのように、静かな時間を共有した。カーテンから射し込む光が、私たちの間にやさしく流れている。気づけば、私の心はこの何気ないひとときにとらわれていた。 翔太とこうしていると、私も素直になれる気がする。普段は口に出せないけど、私は彼が隣にいるこの瞬間が、好きなんだ。 「……なあ、翔太。こうして、ずっと一緒にいたらどうなるんだろうね」 ふと、そんな言葉が口からこぼれた。自分でも驚くくらい自然に出てきた。 翔太は少しだけ眉を上げて、それから柔らかく微笑んだ。「そうだな、きっと……いつか、おばあちゃんになってもこうして隣で話してそうな気がするよ」 彼のその言葉に、私は思わず吹き出してしまった。「おばあちゃんって、ちょっと早すぎるでしょ！」 でも、笑いながらも、心の奥でその未来が思い浮かぶ。二人とも年を重ねても、こんなふうにくだらない話をしながら、一緒に笑っていられるといいなって。 少しの沈黙のあと、私たちは再び顔を見合わせた。彼の茶色の瞳が、私の瞳にまっすぐに向けられている。心がふわりと浮かぶような、不思議な感覚に包まれた。 「じゃあ、これからもよろしくな、おばあちゃん予備軍」 翔太がからかうように言ってくる。私はわざとらしくため息をついて見せたけれど、その言葉がとても嬉しくて、自然に笑顔がこぼれる。 この曖昧で、何気ないけれど大切な時間が、いつまでも続けばいいと、心からそう願った。