遊園地に来るなんて何年ぶりでしょうか。目の前には鮮やかなメリーゴーラウンドが回り、陽光がキラキラと反射して水面に揺れる影を作り出しています。ふとガラス越しに映る自分の顔を見て、思わず笑みがこぼれました。青いストライプのワンピースは風を受けて軽やかに揺れ、肩のフリルが華やかさを添えています。子どもの頃、この場所は私にとって「夢と魔法の国」そのものでした。でも今は、ただ懐かしいだけではなく、少しだけ胸が切なくなるのを感じます。 「さくら、なにボーっとしてんの？」 声のするほうを見ると、幼馴染の悠が笑っています。彼の隣には、同じく小さい頃からの仲間である紗希が、白いリボンを揺らしながら手を振っていました。私たち3人が揃うのは久しぶりです。高校を卒業して、それぞれ進む道が違ってしまったからでしょうか。今日はみんなの予定が奇跡的に合って、この遊園地で再会することになったのです。 「懐かしいよね、この場所。昔と変わらない気がする。」 私は笑顔を返しながら答えました。けれど心の中では、昔と変わったのは遊園地ではなく、私たち自身だと感じていました。 コーヒーカップで大笑いしたり、観覧車から街を一望したり、射的で悠が景品を取ろうとして全然当たらなかったり。私たちは時間を忘れて、子どもの頃のように遊びました。そのたびに、心の奥底に押し込めていた記憶が次々と蘇ります。あの頃は、未来なんてぼんやりしていて、ただ「楽しい」がすべてでした。でも今は、楽しいだけではなくて、少しずつ大人になっていく自分たちを感じてしまうのです。 メリーゴーラウンドに乗ったとき、私はふと空を見上げました。青く澄んだ空には雲がゆっくりと流れています。風が髪をなでる感触が心地よく、遠くから聞こえる音楽が心を柔らかく包み込んでくれます。木馬の背に揺られながら、私は思い出しました。この遊園地は、私たちにとってただの遊び場ではなかったのです。ここは「約束の場所」でした。 「大人になってもまた来ようね」 あの日、そう約束したのは小学校4年生の夏休みのことでした。あの頃は、大人になることなんて想像もできなくて、ただ永遠に一緒にいられるような気がしていました。でも今、私たちはそれぞれの未来に向かって歩き出しています。それが少し寂しいのはきっと、大人になることがどういうことか少しずつわかってきたからでしょう。 遊園地を出る頃には夕焼けが空を染めていて、暖かな橙色の光が私たちの影を長く伸ばしていました。帰り道、悠がふと足を止め、ポケットから小さな鍵を取り出しました。 「これ、覚えてる？」 それは、遊園地の記念品ショップで売られていた小さな鍵のペンダントでした。私たちはそれぞれ1本ずつ持っていて、「未来を開く鍵」だなんて言って大事にしていたのです。 「懐かしいね。それ、まだ持ってたんだ。」 紗希が驚いたように言います。私は手首に触れ、自分のペンダントが今もそこにあるのを確認しました。そう、私もずっと持っていたのです。ただ忘れないように。 「この鍵って、なんだか昔より意味がある気がする。」 私は小さな声でつぶやきました。悠も紗希も黙ってうなずきます。その沈黙は、私たちが何も言わずとも同じ気持ちを共有している証拠でした。 駅に向かう最後の道を歩きながら、私はふと笑いました。今日は「一瞬の輝き」のような一日でした。でも、それはただ消えてしまうものではありません。この一瞬があるからこそ、私たちはまたそれぞれの未来へ向かって歩き出せるのだと、そう思えたのです。 明日からまた別々の日々が始まります。それでも、今日のこの光景と感覚はきっと消えないでしょう。なぜなら、この遊園地は私たちにとってただの場所ではなく、「私たちをつなぐ輝きの記憶」そのものだからです。 ―――――――― この投稿、気に入っていただけたら嬉しいです！ハートマークタップで応援してね！