[( 2 )のつづき] それから数週間、私たちは定期的に会うようになった。 時にはカフェで、時には公園のベンチで。水城さんは新作のアイデアを語り、私はBL作品への想いを伝えた。 「最近、自分の中で何かが変わってきているんです」 ある日、水城さんがポツリと呟いた。夕暮れの公園で、私たちはいつものように並んで座っていた。 「これまでは自分の経験だけを見つめて書いていた。でも綾さんと話すうちに...もっと大きな愛の物語が見えてきた」 彼の言葉に、私の胸が熱くなる。私のような一読者の想いが、彼の創作に影響を与えているなんて。 「水城さんの作品は、きっともっと多くの人の心に響くはずです。性別も、立場も超えて...」 「綾さんは、私にとって特別な存在です」 突然の告白に、私は息を呑む。 「読者として、友人として、そして...新しい物語を共に紡ぐパートナーとして」 その時、私は理解した。これは単なる作家と読者の関係を超えた、魂の交流だったのだと。 私たちは互いを通じて、新しい愛の形を見出そうとしていた。 「水城さん、私も...」 言葉が喉まで出かかった時、彼のスマートフォンが鳴った。 スマートフォンの画面には「航」という名前が表示されていた。水城さんの表情が一瞬凍りついた。 「高校時代の...あの親友、ですか？」 私の問いに、彼は小さく頷いた。 「航から連絡が来るなんて...久しぶりです。彼、結婚するそうです」 その言葉には、懐かしさと諦めが混ざっていた。でも、不思議と苦しみは感じられない。 「水城さん...大丈夫ですか？」 「ええ。むしろ、晴れやかな気持ちです」 彼は穏やかな笑みを浮かべた。 「『深海の星屑』を書き上げた時、私は航への想いに区切りをつけたんです。でも、本当の意味で前に進めたのは...」 「綾さんと出会ってからかもしれません」 その言葉に、私の心が大きく震えた。 「新しい作品のタイトルは『虹色の交差点』にしようと思います。様々な愛の形が交差する物語...綾さんとの出会いが教えてくれた、新しい世界の物語です」 私は涙を堪えながら微笑んだ。これが私たちの答えなのだと悟った。 作家と読者。男性と女性。同性愛者と理解者。様々な立場を超えて、私たちは確かに繋がっている。 「水城さんの新作、今から楽しみです。きっと、素敵な物語になるはずです」 夕陽が私たちを優しく包み込む。これは終わりではなく、新しい物語の始まりだった。 二人で紡ぐ物語は、きっとこれからも続いていく。それは、愛の新しい形を求める、終わりのない旅路。 そう、まるであの日、書店で偶然出会った時のように...私たちは、いつも物語の中で出会い続けるのだ。 [終わり]