私の名前は月島アオイ。いつもと変わらない夏の朝、白いワンピースに黒のレースアップブーツという、ちょっと不思議な組み合わせの服装で目覚めた。そう、目覚めたのは断崖絶壁の上。目の前に広がるのは、まるで絵の具を溶かしたような碧い海と、黄金色に輝く草原。遠くには白亜の城が、まるでおとぎ話から抜け出してきたみたいに佇んでいる。 「ここは...どこ？」 自分の声が、不思議なほど透明に響いた。短めの黒髪が海からの風になびく。これは夢なのかな？でも、草の匂いも、潮風も、あまりにもリアルだった。 私の記憶では、昨日まで普通の女子高生として、教室の窓際の席で退屈な授業を受けていたはずなのに。 その時、ポケットの中で何かが振動した。スマートフォンかと思って取り出すと、それは古びた懐中時計だった。不思議なことに、針は逆回りに進んでいる。そして、文字盤には見覚えのある日付が刻まれていた——私の17歳の誕生日。今日の日付のはずなのに、なぜか懐かしさを感じる。 「アオイ！」 突然、背後から声が聞こえた。振り返ると、そこには見知らぬ少年が立っていた。でも、なぜか懐かしい。まるで、忘れていた大切な思い出のように。 「やっと見つけた。もう一度、会えるって信じてたんだ」 少年の言葉に、私の中で何かが共鳴する。断片的な記憶が、パズルのピースのように組み合わさっていく。ここは別の世界線。私は一年前、この崖の上で重大な選択をした。そう、あの日も同じように白いワンピースを着ていて...。 「リク...？」 名前を呼んだ瞬間、記憶が洪水のように押し寄せてきた。私はこの世界で、リクと恋をしていた。でも、ある選択によって、その時間は消えてしまった。いや、正確には別の世界線として分岐したんだ。 懐中時計は、世界線を行き来するための鍵だった。私は無意識のうちに、この時計を使って元の世界から飛んできたんだ。でも、なぜ今日なんだろう？ 「一年前の今日、君は世界を選んだ」リクが静かに言った。「人類を救うために、僕たちの時間を消すことを選んだんだ」 そうだった。この世界では、私たちは人類の運命を左右する秘密を知ってしまった。そして、その秘密を守るために、私たちの出会いそのものを消す必要があった。私は泣きながら、時計の針を戻したんだ。 でも、不思議だった。もし私が本当にその選択をしたのなら、なぜリクは私のことを覚えているんだろう？ 「実はね」リクが微笑んだ。「僕も別の世界線から来たんだ。君と同じように、この時計を使って」 空が茜色に染まり始めている。私たちは同じ選択をして、同じように後悔して、そして偶然にも同じ日に時を超えてきた。これって、運命なのかな？ 「今度は違う選択をしよう」リクが手を差し伸べる。「世界は、きっと別の道があるはずだから」 私は頷いて、その手を取った。白いワンピースが夕陽に輝いて、まるでオーロラのように揺らめく。今度は、世界も私たちも、両方救ってみせる。だって、これは三度目の夏。もう、間違えるわけにはいかないから。 懐中時計の針が、ゆっくりと普通の方向に進み始めた。私たちの新しい物語は、ここからまた始まる。そう、碧い海と黄金の草原が広がる、この魔法のような場所から。 それにしても、神様ってユーモアのセンスあるよね。私とリクを再会させるのに選んだ場所が、まるでファンタジー小説から飛び出してきたみたいなこの断崖絶壁なんだから。でも、それがちょうどいい。だって私たちの物語も、どこかファンタジーみたいなものだから。 時計の針は12時を指している。物語は、また新しい1ページを開く準備を始めていた。 ----- この投稿、気に入っていただけたら嬉しいです！ハートマークタップで応援してね！