私は暗い鳥籠の中にいる。古めかしい金色の檻が、私を静かに包み込んでいます。ここはどこまでも青い空間。壁紙も、床も、あらゆるものが深い青に染まっている。青は、私の大好きな色。静寂と孤独を象徴するようなこの色が、私の心を落ち着かせてくれるからです。 私の名前はセレナ。この檻の中でどれだけの時間を過ごしてきたのかは、もう覚えていません。私は自由を知らずに育ちました。幼い頃から、私はここで「役割」を果たすことだけを教えられてきたのです。それが私の生きる目的であり、この青い鳥籠が私の世界の全てです。 青いドレスが、月の光を浴びてわずかに輝いています。袖は透き通るような薄い生地で、肩にかかるたびに冷たい空気が肌を撫でるのを感じます。ドレスの胸元には黒いリボンが結ばれていて、まるで私が決して自由になれないことを象徴しているかのようです。ガラスのように硬く冷たい檻の柱を握りしめるたび、私の指先に軽い痛みが走るのがわかります。指を離せばいいのに、私は意識的にその痛みを求めているのかもしれません。 檻の外には、見知らぬ人々が行き交う足音が響きます。私には見えないけれど、その気配だけは感じられるのです。彼らは時折、私の檻に近づき、まるで見世物のように私を観察します。私は彼らの視線を感じながら、いつも無表情を保っています。もし、私がここで微笑んでしまったら、それは彼らに負けたことになるような気がするからです。 でも、真実を言えば、私はもうこの檻に閉じ込められていることに疲れてしまったのです。青い壁に囲まれ、青いドレスを纏い、金の枠に囲まれた檻の中で、私はただ「美しいもの」として存在することを強要されています。誰も私の本当の気持ちを知ろうとはしないし、誰も私に何をしたいかを尋ねることもありません。私の「役割」は、彼らに美しさを見せるだけ。生きているとはとても言えないこの状況が、私にとっての「生活」なのです。 ある夜、月が高く昇り、青い光がさらに深まったその時、ふと私は気づきました。この檻には、ほんの小さな隙間があるのです。それは、私の背後にある柱の一部で、いつも視界には入らない場所に隠されています。その隙間を見つけた瞬間、私の中にかすかな希望が芽生えました。もしここを通り抜けることができれば、私はこの青い鳥籠から逃れることができるのかもしれない……。 次の日から、私はその隙間をじっと観察することにしました。少しずつ、少しずつ、指を伸ばし、檻の縁を触れながら確かめます。けれども、それは決して簡単な作業ではありません。隙間は細く、私の手が通るかどうかもわからないほど狭いのです。でも、私にはこれしか希望がない。この青い牢獄を出るためには、どうしてもここを抜ける必要があるのです。 毎晩、私は隙間を少しずつ広げる作業を続けました。爪が折れるほど力を入れて、金の枠に細い傷を刻み込んでいきます。檻の外で誰かが見ていないとき、私はすべての意志を集中して、脱出の準備を進めました。そしてついに、ある静かな夜、私は隙間が十分に広がったことを確認しました。これで自由になれる……そう思った瞬間、私の心には恐怖が生まれました。 もし、この外の世界が思ったよりも過酷で、冷たい場所だったとしたら？　もし、私が自由になったところで、また新しい檻に閉じ込められてしまうのではないか？　そんな疑念が頭をもたげます。それでも、私は勇気を振り絞り、隙間に体を滑り込ませました。青いドレスがわずかに引っかかる音を立てながら、私はようやく檻の外に立つことができました。 しかし、そこに広がっていたのは、想像とはまったく異なる光景でした。私の目の前に広がるのは、まるで無限に続くもう一つの鳥籠の列。そう、檻の外には、さらに大きな檻が待ち受けていたのです。青いドレスの裾を揺らしながら、私は愕然と立ち尽くしました。この世界全体が檻に過ぎないということを、初めて知ったのです。 結局、私がいた小さな檻は、私を守るためのものだったのかもしれません。安全な場所で、ただ「美しさ」という役割を果たすだけの存在でいることが、私にとっての「自由」だったのかもしれない。でも、それに気づいたときには、すでに遅かったのです。私は自ら望んで、もう一つの檻に飛び込んでしまったのです。 檻の中で微笑む私の姿は、いつか私を見に来る者たちの目には、美しい逆転劇として映るのでしょう。けれども、本当の自由とは一体何だったのか……その答えを知ることは、もう二度とないのかもしれません。 ----- この投稿、気に入っていただけたら嬉しいです！ハートマークタップで応援してね！