窓の外から差し込む光が、私の手元を淡く照らしている。指先にぴたりと馴染んだ青い手袋は、まるで凍えた季節に咲く花のよう。雪の結晶が繊細に刺繍されたその手袋は、私にとって何よりも大切な存在だ。去年の冬、彼がくれたものだから。 窓辺に座ってふと目を閉じると、記憶が鮮やかに蘇る。彼と初めて出会ったのも、こんな冬の日だった。あの時も、今と同じように静かな午後の光が降り注いでいた気がする。街の喧騒から少し離れた場所にある、小さなカフェ。温かい飲み物を手にした私は、まだ新しい街に慣れず、どこか落ち着かない気持ちで窓の外を眺めていた。そんな時、彼がふと現れたのだ。 彼は私を見つけると、気さくに話しかけてきた。彼の笑顔は、冬の冷たさを忘れさせてくれるほど温かくて、気がつけば私も自然に微笑んでいた。なんでもない日常が、あの瞬間だけは特別なものに変わった気がした。私たちはその日、寒さに肩を寄せ合いながら、しばらくの間だけど一緒に時間を過ごした。 季節が巡り、再び彼と会える日が来るとは思ってもいなかった。でも、春が過ぎ、夏の終わり頃、偶然彼とまた再会した時、私は心のどこかで運命のようなものを感じていた。彼はあの日と同じく優しい笑顔で、私に手を差し伸べてくれた。そして彼との関係が、いつしか当たり前の日常の一部になっていた。 それでも、あの青い手袋をくれた日だけは、今でも鮮やかに覚えている。冬の寒さが一層厳しくなったある日、彼は突然、私の手を取り「冷たい手には、温もりが必要だ」と言って、この手袋を渡してくれた。私が驚いて見つめると、彼は少し恥ずかしそうに目を逸らして、「似合うと思って」と照れたように微笑んだ。その時、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚がした。 手袋をはめると、彼の温もりがまるで直接伝わってくるかのようで、思わず指先まで温かく感じた。この青い色も、彼が私のために選んでくれたものだ。普段なら淡い色や柔らかなトーンを選ぶことが多い私にとって、この鮮やかな青は少しだけ冒険だったけれど、彼のセンスは見事に私に似合うものを見つけ出してくれた。いつの間にか、この青い手袋は私の中で冬の象徴になっていた。 窓から射し込む光が、その手袋の雪の結晶模様をやわらかく浮かび上がらせる。指先でその刺繍をなぞりながら、彼のことを考える。彼の大きな手、穏やかな声、そして私を包み込んでくれる温かさ。そのすべてが恋しくて、切なくて、それでも心の中には温かな気持ちが溢れてくる。いつかまた彼と一緒に、この冬の街を歩けたらと、静かに願う。 時間が過ぎ、夕方が近づくにつれて、窓辺からの光も少しずつオレンジ色に染まっていく。まるで夕焼けの中で青い手袋がひと際美しく輝いているようだ。私は自分の姿を窓に映してみる。彼が好きだと言ってくれたこの髪の編み込みや、耳に揺れる小さなピアスも含めて、今の自分が少しだけ愛おしく思える。 「また、会いたいな」 自然とつぶやいた言葉が、静かな部屋に消えていく。会いたいけれど、もしそれが叶わなかったとしても、私はこの手袋をはめている限り、いつだって彼のことを感じることができる。そう信じているから、寂しさは感じない。彼と過ごした思い出が、今も私を温めてくれるからだ。 窓の外では、少しずつ夜が訪れている。星がまたたき始め、冬の冷たさが深まる中で、私はこの手袋をそっと握りしめる。そして小さな希望と共に、この冬を、そして次の冬も迎える準備をするのだ。 青い手袋は、ただの防寒具なんかじゃない。私の中で彼と結ばれている象徴であり、いつかまた巡り会うための小さな奇跡の種だ。彼と再び出会う日が来るかもしれない。そんな予感が、私の胸の中に静かに灯る。 ----- この投稿、気に入っていただけたら嬉しいです！ハートマークタップで応援してね！