私はサラ。どこまでも広がる青い空と花々に囲まれて、ここに立っています。風が私の髪を撫で、薄い白いドレスの裾を軽やかに揺らしていくたび、まるでこの場所が私のためにあるような錯覚を覚えます。光が強く、柔らかく、私を包み込むこの場所。いつからか、夢の中で何度も訪れていた風景ですが、今はこうして目の前に広がっているのです。 足元には色とりどりの花々が咲き乱れ、彼らは私を見上げているかのように静かに揺れています。特に目を引くのは、優しいピンクや白の花びらを持つ小さな花々。風が吹くたびに、花びらがそっと舞い上がり、私の周りでダンスをしているようです。これほどまでに美しい風景が存在することを、私は知りませんでした。ここが夢の世界なのか、現実なのか。それすらもわからなくなってしまうほど、私の心は深く、この光景に囚われています。 手を伸ばしてそっと花びらを撫でると、まるで生きているかのように温かさを感じます。その温もりは、私の心を優しく溶かしていくようで、普段感じる孤独や不安が一瞬だけ消えていきます。でもその瞬間、胸の奥に小さな違和感が浮かび上がります。ここにいる私は本当の私なのでしょうか？それとも、どこか別の場所で目覚めを待っている私がいるのでしょうか。 ふと気づくと、私は無意識に足を進めていました。周りの花々が道を作るように広がり、その道に沿って歩き出したのです。白いドレスが風になびき、淡い青と白の光が私を追いかけるように照らしています。この道の先に何があるのか、私は何も知らないまま歩き続けます。振り返って戻ることも考えましたが、奇妙な安らぎと懐かしさがこの道を進む私を後押ししていました。 やがて目の前に、小さな湖が姿を現します。湖面は青く澄み渡り、私の姿がそのまま映っています。ドレスの白、髪の淡い青、瞳の紫が、まるでキャンバスに描かれた絵のように湖面に広がっているのです。私は湖面に映る自分をじっと見つめました。そこには、普段の自分とは少し違う表情の私がいます。どこか遠くを見つめるような、物憂げな瞳。それはまるで、私自身がここにいるべき存在ではないと知っているかのような目をしています。 不意に、私は自分が何かを忘れていることに気づきました。何かとても大切なもの。それは、私がここに来る前からずっと持っていた何かです。でも、それが何なのか思い出せない。ただ、心の奥に強く感じるその喪失感が、胸を締め付けます。私は目を閉じ、静かにその感覚に耳を澄ませます。 すると、遠くからかすかな声が聞こえました。それは、私を呼ぶ声のようでもあり、風が囁く声のようでもあります。その声は私に「戻ってきてほしい」と懇願しているようでした。私は少しだけ微笑み、再び湖に目を戻します。湖面に映る自分の瞳が、ほんの少しだけ潤んでいるのが見えました。私がここにいるのは、夢と現実の境界を彷徨う一時の存在であることを、その瞳が教えてくれたのです。 私は手を広げ、もう一度風を感じました。この場所は私にとって安らぎの地であり、何もかもが理想的です。でも、私には戻るべき場所があることを思い出してしまったのです。ここでの記憶も感覚も全て、やがて薄れていくことでしょう。それでも、今この瞬間だけは、私はここにいる「私」であり続けたいと思いました。まるで永遠に続くかのように美しいこの場所で、私は静かに目を閉じ、最後のひとときを噛み締めます。 そして、目を開けたとき、全てがぼやけていきました。風も、花も、湖も、全てが消えていきます。手を伸ばしても、何も掴めません。私の心は少しだけ苦しく、寂しい気持ちで満たされましたが、それでもどこか懐かしい温もりが胸の中に残っていました。 目が覚めると、私は現実の世界に戻っていました。ベッドの上で見上げる天井、窓から差し込む朝の光、そして手元に残る感覚は、今の私にとって確かなものでした。あの場所はただの夢だったのかもしれません。それでも、私はあの場所で見つけた「私」を、どこか誇らしく感じています。あの青い風と白い花に囲まれた記憶は、私が忘れていた大切な「私自身」を思い出させてくれたのです。