私、綾瀬真白は、いつものようにスーパーのカゴを手に取った時、不思議な出来事に出会った。長い黒髪を揺らしながら商品棚の前に立っていた私の視界に、普段と違う光景が飛び込んできたのだ。商品のバーコードが、虹色に輝いて見えた。 最初は照明の具合かと思った。確かにここの蛍光灯は明るくて、商品棚に並ぶ缶詰や果物が艶やかに照らされている。私の着ているジャージの青も、いつもより鮮やかに見える。でも、これは違う。商品を手に取る度に立ち上る光の帯は、まるでホログラムのように空中で踊っている。 「あの、大丈夫ですか？」 店員さんの声に、私は慌てて笑顔を作った。黒髪に光が反射して、瞳の琥珀色が際立つ。ジッパーを少し上げて、深呼吸をする。冷静に考えよう。週に三回は来るこのスーパーで、こんなことは初めてだ。 その日の帰り道、私はスマートフォンで「バーコード 光」と検索した。出てくるのは普通の技術情報ばかり。でも、私には確かに見えている。商品を手に取る度に現れる虹色の光の中に、なんだか意味ありげな模様が浮かび上がるんだ。 次の日からは、意図的に観察を始めた。野菜売り場の青リンゴからは若葉のような緑色、缶詰からは深い藍色、お菓子の棚からは明るい黄色。商品の性質によって、光の色が違うことに気づいた。 そして一週間後、衝撃的な発見があった。賞味期限の近い商品からは、かすかに赤い光が漏れている。まるで「私たちを早く買って」と訴えかけているみたい。この光は、商品たちの声なのかもしれない。 買い物の度に、私は商品たちの「声」を記録していった。スマートフォンのメモ帳は、カラフルな光の記録で溢れていく。ある時は、特売品の光が他より強く輝いて、お買い得情報を教えてくれた。また違う時は、新鮮な野菜が爽やかな光を放って、その日のおすすめを知らせてくれる。 不思議な能力に戸惑いながらも、私はそれを活用し始めた。賞味期限の近い商品を優先的に買ったり、光の強い野菜を選んだり。家族が「最近のご飯、美味しいね」と言ってくれるたびに、密かな喜びを感じる。 気づけば、このスーパーは私の大切な場所になっていた。蛍光灯の明かりに照らされた商品棚、カラフルな商品のパッケージ、そして手に取る度に踊る虹色の光。どれもが愛おしい。 ある日、おばあちゃんから「最近、真白ちゃんのお料理上手になったわね」と言われた。 私は嬉しくなって、つい頬が緩んでしまう。長い前髪の下から覗く瞳が、きっと幸せそうに輝いているはず。この不思議な能力は、きっと誰かのためになっているんだ。 買い物カゴを持ちながら、私は考える。非日常的な能力を持ってしまった理由は分からない。でも、それを使って日常をほんの少し良くできるなら、それはそれで素敵なことじゃないかな。 今日も私は、いつものように青のジャージを着て、スーパーの自動ドアをくぐる。商品たちの光る声に耳を傾けながら、この小さな世界の中で、できることを探していく。