足元の石が小さな音を立てて崩れました。私の名前はナギサ。鉱石採掘の作業員として、惑星アクルムの鉱山で働いています。この星は地球から遠く離れた辺境に位置していて、大気は薄く、風は砂と岩を巻き上げて絶えず荒々しく吠えています。ここに降り立った時、青い空と緑の草木がない光景に胸が詰まるような寂しさを覚えましたが、今ではこの不毛の地にも少し愛着が湧いています。 私たちが採掘しているのは「ルミナイト」と呼ばれる希少鉱石です。この鉱石は、エネルギー効率が驚異的に高く、宇宙船の動力源として欠かせないものです。でも、その採掘は一筋縄ではいきません。鋭い岩肌が並ぶ峡谷を進むたび、砂ぼこりで視界が遮られるし、クレーターのような穴に落ちる危険もあります。それでも、私はこの仕事にやりがいを感じています。地球での平凡な生活に飽きていた私にとって、ここは未知の冒険の舞台。汗まみれの毎日は苦しいけれど、それが生きている実感を与えてくれるのです。 私の姿は、この星の荒涼とした背景の中でちょっと場違いに見えるかもしれません。ラベンダー色の髪は、作業用ヘルメットをかぶるのが嫌でいつも後ろで編み込んでいます。そのせいか、「おしゃれ鉱夫」なんてあだ名でからかわれることも。青い作業服には、会社のロゴがプリントされたワッペンが袖に付いています。太陽の光を反射するその青が、乾いた砂の大地の中で唯一鮮やかな存在感を放っています。そして、腰にぶら下げた道具類が、歩くたびに軽やかな音を奏でます。どんなに疲れていても、この音を聞くと「やれるさ」と気合が入るのです。 今日は特に厳しい日でした。長時間の掘削作業を終えたあと、鉱山のさらに奥へと進むことになりました。そこは誰もまだ足を踏み入れていない未開のエリアです。リーダーのエドが先頭に立ち、私たちは慎重に歩を進めます。峡谷の壁は黒く、光がほとんど届きません。でも、ランプの光がちらつく中で、何か奇妙なものが見えました。それは岩肌に埋め込まれた透明な結晶のようなもので、光を当てると七色に輝きました。 「なんだこれ……ルミナイトとは違うな」 エドが眉をひそめてつぶやきました。私はその結晶に近づき、手袋越しに触れてみました。すると、予想もしないことが起きました。結晶がわずかに振動し、音を発したのです。それはまるで、何かが遠くで呼びかけているような低く澄んだ音でした。 「これ、もしかして……生きてる？」 私は冗談めかして言いましたが、誰も笑いませんでした。全員が同じように、ぞくりとした不安を感じていたのです。 その瞬間、地面が揺れ始めました。峡谷全体が震え、岩が崩れ落ちる音が響き渡ります。私は思わず叫びながら飛びのきましたが、頭の中は冷静でした。背後を振り返ると、誰かが「急げ！」と叫んでいました。私たちは崩れる岩の合間をくぐり抜け、辛うじて安全な場所へ逃げ込みました。 「今の、何だったんだ？」 息を切らせながら、誰かが言いました。でも、私には何となく分かっていました。あの結晶は、この星の何か未知の存在の一部だったのではないかと。私たちは、この星の生命や意識に触れてしまったのかもしれない。だから、反応した――いや、拒絶されたのかもしれません。 休憩所に戻る途中、私はふと足を止め、振り返りました。夕陽が峡谷を染め上げ、その光が赤と金色の砂に反射して、まるで星空のように見えました。この荒涼とした地にも、確かに美しさがある。私たちはこの地に挑み、克服し、でもまだその全てを理解しているわけではない。そのことが、奇妙に胸を熱くしました。 未来に何が待っているかは分かりません。でも、私はこの星での挑戦を続けます。未知と向き合うこと。それこそが、私たち人類の本質なのだと思うからです。そして、あの結晶が何を語りかけていたのか――それを確かめる日は、きっとまた来るはずです。