私はリリアーナ。王都セレナーデの大広間で誰もが認める「金の花」と称えられる存在です。 白と黒を基調としたこのドレスは、家紋の金糸刺繍が繊細に施され、 見る者を圧倒する華やかさを備えています。 鏡のように磨かれた床に映る私の姿。 しかし、誰も私の胸にある重みには気づきません。 　 この部屋、豪華絢爛な内装の中、 赤いビロードの椅子に深く身を預けている私を、 一体誰が本当の私として見るのでしょうか？ 黒髪に金の飾りを散りばめたヘアスタイルは、 何もかも「王女としての私」を表現しています。 けれども、青い瞳に映るのは冷えた空気ばかり。 この部屋の花も光も、私を飾るためだけに存在しているのです。 　 「ねえ、あなたは自由ってどう思う？」 私の問いかけに誰も答えません。 声に出しても、静寂が戻るだけです。 父である国王は私に王位を継ぐよう命じました。 王家の存続のため。国の安定のため。 宿命だと、誰もがそう言います。 　 私はそれを否定する気はありません。 だって、王女としての教育を受け、 この役目を果たすために生きてきたのだから。 でも、心の中で囁く声があります。 「本当にそれでいいの？」と。 　 ──扉の向こうで侍女たちが私を待っています。 儀式が始まる時刻が近づいているのでしょう。 金の飾りが付いた黒いケープを指先で整えながら、 私は深く息を吸い込みました。 　 その時、不意に視界の端に白い花瓶が映りました。 そこに生けられた花々は、私と同じように完璧な配置を与えられ、 その美しさを周囲に見せつけているかのようです。 でも、花は風を受けて揺れることがありません。 太陽に向かって伸びることも許されていません。 その姿に、どこか自分を重ねてしまうのはなぜでしょう？ 　 「私がどれほど美しくとも、 この黄金の檻から出られることはない。」 小さく呟いたその言葉は、 花瓶の花と同じく誰にも届きませんでした。 　 しかし、その夜。 私は初めて「自分の意志」で選ぶ自由を味わいました。 宮殿の外に広がる夜の街を見たことはありますか？ 星空の下、灯りが連なる道はまるで光の川のようでした。 そこに、私の足音が混じる瞬間が訪れるなんて。 　 ──人々のざわめき、街灯に照らされる石畳。 それらは、私に新しい呼吸を与えました。 見知らぬ顔、聞き慣れない声。 誰も私を王女と知らないこの世界で、 私はただの「リリアーナ」になれるのです。 　 でも、ほんの束の間の自由でした。 衛兵が私を追いかけ、私は再び王宮へと戻されました。 部屋に戻った私に、父が告げた言葉は厳しいものでした。 「リリアーナ、二度とこのような真似をするな。」 　 それでも、心の中で芽生えた何かが確かにありました。 自由を求める感情、それは罪ではないのだと知ったのです。 私は王宮で生きる覚悟を決めました。 けれども、その中にほんの少しの「私」が宿る場所を残すこと。 　 私は再び赤い椅子に座り、鏡を見つめました。 そこに映るのは金の花としての私、 でも、今の私はその内側に「自由」という青い種を持っています。 それを誰にも奪わせないと誓いました。 　 この広間に響く私の声は、以前より少しだけ強く、そして優しくなりました。 「私はリリアーナ。王女であり、私自身である。」 未来に向かう光を瞳に宿しながら、 私は新しい一歩を踏み出したのです。