夜空は息を呑むほど静かで、美しい。星々が織り成す光の海が広がり、その中にぽつんと浮かぶ私の星、ティエラ。 ティエラは小さいけれど、緑にあふれた星だ。風が奏でる木々のささやき、鳥たちの澄んだ声、湖が静かに歌うような波紋。すべてが一つの旋律を紡ぎ出している。それでも、この星にはどこか寂しさがある。音はあれど、響き合うものが足りないような感覚だ。 私、リラ。銀色の髪に緑の瞳を持つ、ただの女の子。私の家は森の奥にある。大きな木の根元を掘り抜いた家で、天井からは星空が見える窓があいている。昔は「誰かと分かち合いたい」と思うこともあったけど、この星に私以外の人間はいないみたいだ。それでも、不思議と孤独は感じなかった。鳥や木々が私の話し相手だったから。 でも、その夜は少し違った。 いつもよりも静かで、空気が重いような感じがした。ふと窓の外を見ると、空に奇妙な光の筋が現れた。それは流星のように見えたけど、地面に近づいてくるほど、光が優しく揺れているのが分かった。その光は星の裏山の方へと消えていく。まるで「おいで」と誘っているかのように。 胸の奥がざわざわして、居ても立ってもいられなくなった。気づけば、私は裏山へ向かって走り出していた。 草むらをかき分ける音、足元に散らばる小石の感触、肌を撫でる冷たい風。普段は気に留めない自然のささやきが、鼓動と一緒に高鳴り、体全体を包み込んでいた。薄明かりの中にぼんやりと浮かぶ古い天文台。幼いころに一度だけ足を踏み入れたことがあるその場所が、こんなにも生きているように見えるなんて。 扉を開けると、中には優しい光が満ちていた。中央に佇む望遠鏡は、どこか懐かしさを感じさせる。無数の模様が刻まれた表面は、星の地図のようだ。近づくと、小さなテーブルの上に一つのクリスタルが置かれていた。透明で輝きがあるその石をそっと手に取ると、暖かい音が体を包む。 「これ、星の歌……？」自然と声が漏れる。 私はそっとクリスタルを耳に近づけた。すると、それはただの音ではなく、星々が奏でる旋律だと分かった。それぞれの音が調和し、まるで会話をしているように感じられる。   その瞬間、望遠鏡が小さく震えた。私はゆっくりと覗き込んだ。視界に飛び込んできたのは、無数の星々が広がる広大な宇宙。その中で一つ一つの星が淡い光を放ちながら、それぞれの歌を歌っているのが分かる。   「本当に、星たちは歌っているんだ……」   言葉が胸の奥で溶け、代わりに深い共鳴が体中に広がった。私が見つめた先、青白い星がふっと光を強めたかと思うと、その光が薄い糸のようにクリスタルに向かって伸びてきた。 クリスタルがその光を吸い込むように輝きを増していく。そして、星の歌が今までよりも大きく、鮮明に響いてきた。遠い星が私の小さな星に語りかけてくれているようだった。その響きに心が震えた。   「これを……届けたい」   誰に？どこへ？分からないけれど、この音楽をもっと多くの存在と分かち合いたい。自然にそう思った。   天文台の中で一晩を過ごし、星々の歌を聴いていると、クリスタルはまるで私に語りかけてくるようだった。その優しい光の中で、ひとつの記憶が蘇った。幼いころ、母が私に歌ってくれた子守歌。 その歌もまた、星の歌と溶け合い、共鳴している。母の姿はぼんやりとしていたけれど、暖かさだけははっきりと残っていた。   夜が明けるころ、天文台の窓から差し込む光が、星々の歌と重なり合った。私はクリスタルを大切に抱きしめながら、胸に決意が芽生えた。これから何ができるのか分からないけれど、この星の静かな寂しさを埋める方法がある気がする。 外へ出ると、朝の光が優しく森を包み込んでいた。クリスタルの温もりを感じながら、私は新しい一歩を踏み出した。   その朝、森はまるで息を吹き返したかのように輝いていた。鳥たちのさえずりはいつもより生き生きとしていて、風が木々を揺らす音は優しいハーモニーのようだった。私はクリスタルを胸に抱きながら、山を降りる道を歩いていた。心の奥に眠っていた何かが、ゆっくりと目を覚ましていくような気がした。   森を抜けると、小さな湖が広がっていた。湖面は静かで、星のように煌めく朝日が映り込んでいる。そこに立ち止まると、私はふとクリスタルを取り出し、湖に向かってその光を向けてみた。 すると、信じられないことが起きた。クリスタルが淡い虹色の光を放ち、それが湖の水面に広がっていったのだ。その光は波紋となり、やがて音になった。それは湖の歌だった。 （つづく） 全部を載せたいのですが制限があるため、もし続きが気になる方はPageMeku（ページメク）をご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！