湖畔のベンチに腰を下ろし、私は目の前に広がる光景に見入っていた。秋の風がそっと頬を撫で、毛布の中で温もりを感じながら、静かに深呼吸する。目の前には、鮮やかな紅葉が湖面に映り込み、一面を彩っている。赤や黄色、橙色の葉が風に揺られてひらひらと舞い落ち、湖に浮かぶ様子が美しかった。 この場所は昔から大好きだった。ここに来るたび、心が穏やかになる。風の音、水の静かな波紋、そして何よりも、この色とりどりの紅葉たちが作り出す幻想的な風景。自然の中に身を置くと、時間がゆっくりと流れているように感じる。 私は毛布を少し引き寄せ、秋の冷えた空気から身を守った。ふと、今までの出来事やこれからのことを思い巡らせる。特に何か大きな変化があるわけではないのに、この場所にいると、未来への不安や悩みがふっと消えていく気がする。すべてがこの穏やかな景色の中で調和しているように思えるのだ。 風が少し強くなり、木々の間から小さな葉が舞い降りる。その瞬間、私はこの紅葉の美しさを永遠に忘れることはないだろうと思った。けれど、これが永遠に続くわけではない。それでもいい。今、この瞬間を心に刻んでおけば、それだけで十分だ。 空を見上げると、薄い雲がゆっくりと流れていく。次の季節が近づいていることを感じながら、私はもう少しこの湖畔で過ごすことにした。もしかしたら、この景色を眺めるのは今日が最後かもしれない。でも、また来よう。いつか。