私の名前は月野ユイ。9歳📚 この街の片隅にある古本屋「月の本棚」で母と二人で暮らしている🌙 母さんは私を産んだ後、父さんに捨てられたらしい。詳しくは聞いていない。大人の事情ってやつだ🤐 古本の匂いが染みついた私の部屋からは、いつも雨の音が聞こえる。雨が降っていなくても。不思議だろう？ 私もそう思う👂 この街は、いつも曇り空だ。太陽の光が地面に真っ直ぐ降り注ぐことはめったにない。まるで神様が、ここだけ忘れてしまったみたいに☁️ 「ユイ、お客さんが来るから、奥で遊んでなさい」 母さんの声は、いつも少し疲れている。口紅の色は鮮やかなのに、目の下にはクマがある。矛盾だらけの大人の顔だ💄 古本屋の奥には、誰も入らない小さな部屋がある。母さんは「物置だから」と言うけれど、私はそこが好きだ。埃まみれの本の間には、きっと誰かの思い出が詰まっている。📖 その日も、私はその物置で本の山をかき分けていた。退屈だった。死ぬほど退屈だった。ガキの分際で「死ぬほど」なんて言葉を使うなと母さんは言うだろうけど🙄 そして見つけた。小さな木箱。中から覗いたのは、ほんの掌サイズの砂時計✨ 「なんだろこれ？」 手に取った瞬間、世界が歪んだ。目の前で色が溶け出し、音が反転する。頭の中で何かが弾けるような感覚⏳ 次の瞬間、私の目の前には見知らぬ光景が広がっていた。雨の中を走る女の人。血の色のコート。叫び声。そして、暗闇の中で輝く白い花🌧️🌸 「——ユイ！ユイ！」 気づくと、母さんが私の肩を揺さぶっていた。心配そうな顔。でも、その奥に見える恐怖。 「大丈夫？ 急に倒れるからびっくりしたじゃない」 私の手には、まだあの砂時計が握られていた。中の砂は、ゆっくりと落ちている。そして不思議なことに、その砂は紫色に輝いていた🔮 「これ、どこから出てきたの？」母さんの声が震えていた。 「物置で見つけた。触ったら変な夢を見た」 母さんの顔が青ざめる。知っているんだ。この砂時計のこと。 「夢って、何を見たの？」 言おうとした瞬間、言葉が喉に引っかかった。「血のコートの女の人と、白い花」 母さんが凍りついた。まるで時間が止まったように⏱️ 「ユイ、約束して。二度とその砂時計に触らないで」 声には必死さがあった。けれど、その時の私は知らなかった。この砂時計が私の人生を、そして母さんの秘密を変えてしまうことになるなんて。 「わかった」と嘘をついた。子どもの直感だ。この砂時計には、何か大事なことが隠されている🤫 その夜、私は砂時計を枕元に置いて眠った。夢の中で誰かが囁いた。 「砂が落ちきるまでに、すべてを終わらせなければならない」 目が覚めると、砂時計の砂は、もう半分も落ちていた⌛ そして朝のニュースが告げていた。「昨夜、当市で女性が殺害される事件が発生——」 画面に映ったのは、あの血の色のコートだった🚨 私の中で何かが変わった。時間が見える。未来の断片が。そして今、私は走っている。小さな足で、大人たちの見落とした真実を追いかけて🏃‍♀️ 砂が落ちきる前に——終わらせなければ。 ＊ 朝の空気は冷たい。古本屋の窓から覗く外の世界は、いつも以上に灰色に見える☁️ 「学校、休んでいい？」 母さんは眉をひそめた。「どうしたの？熱でもあるの？」 「うん」と嘘をつく。子どもの特権だ。大人は子どもの嘘を見抜けないと思っている。でも本当は、あの事件の現場に行きたかったんだ🤒 母さんが店を開ける前に、こっそり家を抜け出した。ポケットには砂時計。もう砂は三分の二ほど落ちている。時間がない⏳ 事件のあった場所は、うちから歩いて15分。古い団地の裏手。黄色いテープが張り巡らされていた👮 「ここに近づいちゃダメよ」 振り向くと、見知らぬ女性が立っていた。銀色の長い髪に、澄んだ青い目。外国人みたいだけど、日本語は完璧👩‍🦳 「あなた、見えるのね」と彼女は言った。「時間の隙間が」 私の心臓が跳ねた。「あなたは誰？」 「私はミラ。あなたと同じ」彼女は微笑んだ。「時間を覗く者」 彼女の手には、私と同じ砂時計が握られていた。でも中の砂は青く、ほとんど落ちていなかった🔹 「その砂時計、どこで？」 「質問が多いわね」ミラは笑った。「でも時間がないわ。あなたが見た白い花、探しているんでしょ？」 [ (2) につづく ]