[ (1) のつづき ] 次の日から、私は砂時計のことが頭から離れなくなった⏳💭 学校の授業なんて、まるで耳に入らない。先生の声は遠くで反響して、黒板の文字はまるで別の言語みたいに見える。ノートにペンを走らせるフリをしながら、私は考え続けていた。 あれは、本当に「未来」だったのか？ だとしたら、あの倒れていた人は誰？ 泣いていた女の子は？ そして——私はなぜ泣いていた？ 頭の中で繰り返し問いかけるけれど、答えは出ない。 「月野、ノート、出して」 隣の席のユウカが、こっそりと私の袖を引いた。彼女は気の強いタイプで、みんなの前では優等生だけど、休み時間になると「先生マジつまんない」とか平気で言う子だ。 私は慌ててページをめくって、適当に書いたノートを渡した。ユウカはちらっと見て、眉をひそめた。 「なにこれ？ 落書き？」 私は自分のノートを見た。……そこには、時計の絵がたくさん描かれていた⏳🖊️ 「……あれ？」 自分でも気づかないうちに、私は砂時計の形を何度も何度も描いていた。 「月野、最近変じゃない？」 ユウカが小声で言った。からかうような声だけど、どこか心配そうだった。 「なにかあった？」 「……べつに」 私は曖昧に笑って、ノートを閉じた。 でも、分かっていた。私は変わり始めている。あの砂時計に触れてから——時間の流れが、私の中で少しずつ狂い始めている。 そして、その夜。私は初めて、「未来の映像」が現実になる瞬間を目撃した。 ＊ 古本屋の店じまいを手伝ったあと、私はまた店の奥の秘密の部屋にいた。 机の上には、例の砂時計。 何も考えずに、私はそっとそれを持ち上げる。ガラス越しに、細かい砂が落ちていくのを見つめる。 カラリ、カラリ……。 私は、迷った。 また未来を見たら、どうなる？ 今度こそ、はっきりと何かを知ってしまうかもしれない。 でも、知ったところで——私は何ができる？ ……それでも、私は、もうこのままではいられなかった。 手が勝手に動く。 砂時計を——ひっくり返した。 ——視界が、ずれる。 暗闇🌑 冷たい空気が肌にまとわりつく。 雨の音☔ 濡れた路地裏。 そして——人が倒れている。 「っ！」 私は息をのんだ。 それは昨日見た映像とまったく同じだった。 そして——次の瞬間。 🔔 古本屋の入り口のベルが、チリンと鳴った。 私はハッとして、現実に引き戻された。 店の外から、誰かが入ってきたのだ。 「……いらっしゃいませ」 お母さんがカウンター越しに声をかける。でも、返事はない。 私はそっと店の奥から覗いた。 そこにいたのは—— ずぶ濡れの男だった🌧️ 黒いコートを着て、肩から滴る水が床を濡らしている。顔は俯いていて見えない。でも、その立ち姿が、何かおかしい。 まるで——倒れる寸前のような、危ういバランス。 ——待って。 私は、知っている。 この光景を、さっき見た。 未来の映像の中で、私は「この人が倒れる瞬間」を見た。 このままだと—— 「っ！！」 私は駆け出した。 間に合わなければ、あの人は——！ その瞬間、男がよろめいた。体が傾ぐ。 私は手を伸ばした—— 「——危ない！！」 ドサッ。 男は、私の目の前で倒れた🚶‍♂️💥 私は、心臓が止まりそうになった。 ——未来は、本当に起きた。 この砂時計は、ただの幻なんかじゃない。 「未来を見せる」だけじゃなく、「未来を変えられるかもしれない」。 でも—— もし私が動かなければ、この人はどうなっていた？ もし、次に見る未来が「もっと恐ろしいもの」だったら？ 私は、怖くなった。 この力が、「正しいもの」なのかどうか、分からなくなった。 だけど、もう戻れない。 私は知ってしまった。 「未来」は、ただ流れるものじゃなく——触れてしまえるものだということを。 ——カラカラカラ。 机の上の砂時計が、静かに、時間を刻み続けていた⏳✨ [ (3) につづく]